後半 バトロワでこんな湿度高い参加表明することある?
【視点変更:Player2 浜菊咲良】
「…………あれ?あたしじゃないの?」
愛が重い方が前衛なら、あたしが前衛で六華が後衛だと思ってたんだけど………。
どうやら、六華とクソデカ神はそう思っていないらしい。
「うん♪私だよ♪」
「あぁ笑顔が眩しくてすき―――じゃない、てっきりあたしが前衛だと思ってて」
「え?なんで〜?」
「…………それ今ココで言う必要ある?」
「言わなきゃ分かんないなぁ〜」
「いやでもさぁ、あたし達親友だしさぁ」
「言って♪」
「…………」
「言わなきゃやだ」
「……………しょーがないなぁ…………」
「やったぁ♪」
やたらと上機嫌な、それでいて強引な六華に押し切られ、あたしははぁとため息を付く。
ホントに言うの?恥ずかしいんだけど?スクリーンのロリ神が鼻血出してて余計嫌なんだけど?
「あのね………」
「うん」
「あたしさ、六華の事が大好きなの。あたしにとっては一番の親友だと思ってるし、六華にとっても一番の親友でありたい。―――いいや、もしかしたらそれ以上なのかもしれない」
「そっか」
「だから、戦うってなったら、あたしが六華を護りたい。
ほらあたし、一応陸上部でしかも混成選手じゃん?やりとか砲丸とか投げてるし、走ったり跳んだりも得意だし。
―――だから、この戦いに参加して何が得られるか分かんないけど。
もし戦うってなったら、六華のこと全力で護る………なんて思ってたの」
「……………ぅん」
「でも結局後衛みたいだけどね〜。
ま、あたし六華と一緒に何かすること大好きだし、あたしはバトロワ参加してもいいかな」
「…………ありがと。気持ち、受け取ったよ」
2人して、顔を見合わせる。
あたしの照れた顔は、きっと黒い部屋に映えているのだろう。
―――だって、六華の嬉しそうな顔が、黒い部屋に映えているのだから。
『おふぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
…………なんてエモいシーンに浸っていたら、スクリーンの関係性オタクが発狂していた。
『わたくし、SAN値減少!クリティカルですよクリティカル!!よくよく考えたら一方通行じゃなくてちゃんと両思いなの最高ですよね!!ツンデレとヤンデレの百合カプとか嫌いな人居ないですよコレ!!』
推しカプの描写を公式から供給された腐女子のように、語りが止まらない神様。
「ちょっと待って恥ずかしい―――」
あたしはバックバクの心臓のせいで、まともに対処ができない―――
「うるさい黙れクソ邪神」
―――と思っていたら、六華がスクリーンを拳で叩き割っていた。
ヒビ割れた画面の向こうから、怯えるクソデカ神のご尊顔が見える。
『……………こわぃ』
「私に戦闘スキル与えたそっちが悪いんでしょ?」
『なんで知ってるんですか…………』
「さっき『咲良の全てを分かってあげたい』って思ったら、咲良のステータス情報が頭に流れ込んできて。
それなら私の情報も理解できるんじゃないかと思って、『私の全てを理解したい』って念じたら、当然ビンゴだったよね」
『わたくしがカッコよく説明する前にステータス開示のカラクリ暴かないでください………。やっぱりヤンデレってそういう思考力おかしいですよ』
「私が6年間追い続けた夢のひと時を邪魔した罰としては軽いモノだよ。次やったら息の根止める」
『ヒエッ』
「ん???どゆこと???」
何も知らないあたしを置いて進んでいく会話。
頭の中ハートマークだらけのあたしに、六華は優しく言った。
「咲良。私に向かって、『脳髄から傷や唾液までのすべて、六華の全部を知りたい』って言って」
「―――!?えぇッ!?」
「いいから〜」
「も、もうしゃーなしだよ………?」
『しれっと性癖を捩じ込まないでください』
ええと…………
「六華のこと―――左耳のピアスも、派手なファッションも、昼の汗も夜の涙も、全部分かって肯定してあげたい…………!!それがあたしがずっと思ってる願いなの………!!」
「はわわわわ……………きゃっきゃっ………!!」
『思った以上の回答が返ってきてテンション上がってますね。わたくしも発狂していいですか?』
「絶対駄目」
『不公平ッ!!』
「ねぇ六華、この後どうなるの?」
「えーっとね、すっごい量のデータが脳髄に流れ込んで来ます」
「!?」
ハッとしたのも束の間、あたしの脳内に流れ込んでくる、
【Player1 桑原六華】
情報:あなたの事が大好き。
戦闘:拳で戦う。
奥義:首絞め Level2
《以下、バディのみ閲覧可能》
基本ステータス 最高値6:
身体 2
器用 6
精神 1
感覚 3
頭脳 5
魅力 5
地位 3
《以下、閲覧権限がありません》
「……………」
「ね?見えたでしょ?」
「六華」
「なに?」
「奥義のところにある『首絞め』って何よ………」
「たぶん敵と戦う時に首絞めするとダメージボーナス入るんじゃない?」
「でも首絞めるよりぶん殴ったほうが良いんじゃ…………」
「いや私慣れてるから余裕だと思うよ?」
「―――!?慣れてる………!?」
「次は自分のステータス見てごらん?」
「あ、うん…………」
六華の勢いに押され、あたしはそのまま自分のステータスを見てみることとする。
えーっと、『あたしの全てを知りたい』っと―――
【Player2 浜菊咲良】
情報:六華のことが大好き。
戦闘:後衛。ヒーラー。
武術:やり(投げる専門) Level1
基本ステータス 最高値6:
身体 4
器用 2
精神 6
感覚 5
頭脳 2
魅力 3
地位 4
《以下、本人のみ閲覧可能》
【特殊技能】
Level2:直感、スピード、筋力
Level1:聞き耳、社交術、心理、アクロバット、ダイブ、耐久、根性、運転(自動車、バイク)
【主要感情】
好奇心、友情、嫉妬
「―――嫉妬ぉ!?」
いや嫉妬って何!?あたしが六華の周りの人たちに嫉妬してる自覚はあるけど、いざステータスで明示されると困るんですけどぉ!?
『やっぱりツンデレですなwww』
モニターを見れば、テンションが上がってオタクが出たロリ神。
「あらら、感情で嫉妬って出たのかなぁ?ふふふふふ〜w」
右を見れば、音も立てずいつの間にかあたしに身体を密着させてきた親友。
…………当たってるて。六華さん、肌も胸もヘソのピアスも当たってるんですが。あたしの心拍数バグり始めてるんですが。友情のその先に行きそうなんですが。
「てかあんたもどうなの!?精神1ってさぁ!?」
「…………バレちゃった///」
「六華の病みやすさはあたしが、あたしだけが一番分かってるんだけどさ!!だからあたしが隣に居たいんだけどさ!!」
「……………えっすき死にそう」
「こう明示されると…………ホントにあたしが居なきゃ駄目ってことじゃん!あたしが、精神6のあたしが護るしか無いじゃん!!」
「愛してる」
『おっほーwww メンヘラとメンタル強者の共依存コンビ、もう濡れますわぁ。だばだばですわぁ』
……と。あたしは、そんなこんなで。
そんなメンヘラで激かわでほっとけなくて優秀で素敵で世界一な親友と共に、この戦いへ身を投じる覚悟を決める。
「クソデカ神!結局、この戦いに勝ったら何が貰えんの!?てかどうやったら勝ちになんの!?」
『………では、今一度説明を』
そう言って彼女は、あたし達の脳内にデータを送り込む。
『このクソデカ感情バトロワでは、勝利条件が2つございます。
まず1つ目は、合計で7組居るクソデカ感情カプのうち、他のカプ全てをロストさせること。
戦闘で受けた傷は翌日には回復しますが、回復前に致死量の傷を受けた場合ロストとなります。
このロストは1回なら復帰できますが、2度目のロストをした瞬間、そのプレイヤーはバトロワへの参加資格を失います。
2つ目は、期限までに2組以上のカプが生存していた場合。
その際は、戦闘やその他の攻撃で与えた敵への身体的・心理的ダメージの総量が最も多かったカプが勝利となります』
ようやくゲームマスターっぽい貫禄を出し始めたクソデカ神。
先ほどまでとは打って変わった大人びた声音で、ルールを説明していく。
「………つまり、私達は他のカプを全滅させるのが最善。あるいは日常的に戦闘をしてダメージレースを突っ走った上で、最後まで生き残ればいい訳だ」
『流石は六華さん、理解が早い。
その通りです。わたくしは戦闘を経て絆が深まるシチュエーションを見たいので、今回のセッションは戦闘推奨としています』
「………んー?どゆこと?」
『え、わたくし分かりにくかったですかね………』
「大丈夫だよクソ邪神。貴女の説明が悪いんじゃなくて、この頭脳2の理解力が及んでないだけだよ?後で夜通ししっかり教育するから、気にしないで」
『わたくしもその教育覗いていいですか?』
「死にたいの?」
『貴女の手では死にたくないです』
「私は咲良の手で死にたい」
『突然のヤンデレ供給ありがとうゴザイマァス!!』
「あたしは六華を絶対に死なせない。それがあたしの生きる意味」
『突然の激重デレ供給ありがとうゴザイマァス!!』
「んで勝利報酬は?」
『勝利報酬は―――』
『2人だけの理想郷を創造し、2人に永遠の愛を約束します。
現実で死んでそこで生きるもよし、現実で生き続けて時々ユートピアに行くもよし。
まあどの選択肢を選ぼうが、少なくとも―――
2人を汚し、辱め、嘲笑し、馬鹿にし、傷つけ、孤独にさせた人々とは、永遠におさらばできると約束しましょう』
「……………」
「………そっか」
その言葉を聞いた六華は、静かに目を閉じ。
その言葉を聞いたあたしは、目を開き決意を固めた。
―――なぜなら。
その理想郷は、というか最後の約束は。
あたし達が追い求めた願い、そのものだったから。
『それでは、この【クソデカ感情♡バトルロワイヤル】への参加表明を行ってください。
と言っても、先ほど咲良さんから言質は取れているので………
今度は、六華さんのターンですね』
ロリっ娘関係性オタクに見せかけた、実は聡いゲームマスターの声掛けに。
六華は、少しニヒルな笑みを浮かべ、告げる。
「ねぇねぇ、クソ邪神」
『何でしょう?てかクソ邪神じゃなくてわたくしクソデカカンジョウノミコトって本名あるんですけど!?もしくはクソデカ神って読んでくださいよ!?』
「じゃあクソ神」
『もっと悪い!!』
「………最初さ。この部屋のこと『貴女が満足するまで出られない部屋』って言ったよね」
『はい、そうですけど』
「じゃあ、クソデカ感情厨の貴女を満足させなきゃね」
『いやまぁもう十分満足なんですが………』
そう言って、六華は。
「…………ッ♪」
「……………!?」
「好き」
あたしに跨り、両手首を押さえ付け、強引に唇を奪ってくる。
「…………ッはぁ!!六華!?」
「好き。誰より好き。私貴女がいれば世界に誰も要らない。好き。愛してるのその先の次元。貴女のお陰で世界が色付いて見えたくらいには、大好き」
「…………ッん!!」
その体験は、今まで見せてきたヘラってる時の彼女の延長線上にあったけれど。
………明らかに、「好き」の湿度が違うように感じられた。
そしてなぜだかあたしはそれが心地よくて、身を委ねる。
「好き過ぎて一緒に死にたい。いや私は絶対に咲良と一緒に死ぬ。もし無理でも咲良の為に死ぬ。それが私ができる恩返し。好きだもん」
その重厚な好きの連呼は、端から見れば数奇かもしれないが―――
酸いも甘いも共にしたあたしからしたら、決して変なものじゃない。
これは、ありのままの六華だ。
「ねぇクソ邪神。
―――ありがとね、私を本気にさせてくれて」
そして六華は、諸悪の根源へと感謝を口にし、スクリーンの先で悶えているロリ神へと、力強く告げた。
「桑原六華は―――
好きな女のために、命捨てるまで戦い抜きます」
愛が重くて何が悪い。だって愛の力できみを護れるから。〜クソデカ感情百合CP、激重カプだらけのバトロワに挑まんとす〜 棗ナツ(なつめなつ) @natsume-natsu
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