愛が重くて何が悪い。だって愛の力できみを護れるから。〜クソデカ感情百合CP、激重カプだらけのバトロワに挑まんとす〜

棗ナツ(なつめなつ)

前半 たぶんイチャイチャしないと出られない部屋


『ぴんぽんぱんぽーん。お二人は、この『わたくしが満足するまで絶対に出られない部屋』に閉じ込められました』



一面真っ黒な部屋に、大人とも子供とも言い難い、しかし絶対に陰キャと言い切れる、そんなアナウンスが鳴り響いた。



『申し遅れました。わたくし、この世界の八百万の神の一柱である、躯祖出化感帖之命クソデカカンジョウノミコトと申します。挨拶遅れて失敬失敬www』



その主である陰キャオタク神は、語尾でそのアイデンティティをアピールしてくる。しかし後半の声色は、清潔感の欠片も無かった。



『お二人とお話しするのなら、わたくしの顔を出さないのは社会人として不適切でしょう。ひとまず正面のスクリーンをご覧ください。

 …………あ、別に【目星】とか振らなくていいですよデュフフwww』



前半の常識人ムーブで安心していたら、最後にオタク特有の早口で捲し立てられた。別にあたしTRPGやるつもり無いんだけど。



『あー今画面点灯しましたね。

 どうもどうもどうも。改めて、わたくしが躯祖出化感帖之命と申します。我のことはクソデカ神とお呼びくだされwww』



そして、あたし達をこの部屋に閉じ込めた誘拐犯の顔が開示される。


絹のような、日本人形のような繊維の細かい髪に、筆で塗ったような薄く儚い顔立ち。

白粉おしろいなど要らないような肌の白さ。

雪原の中に咲いた花のように朱に染まる頬。

そして、クソデカ神と言う割にどう見ても子どもにしか見えない背丈。



この少女こそ、この重白市最大の神社で祀られているロリ神、クソデカ神である。専門分野は嫉妬と愛情らしい。どーゆー神様やねん。



『という訳で、浜菊はまぎく咲良さくらちゃん。そして桑原くわはら六華りっかちゃん。

 お二人は、わたくしが開催している《クソデカ感情♡バトルロワイヤル》に参加して貰います!』



そして黒髪ボブロリ神は、素っ頓狂な名前を告げ。

あたし―――浜菊咲良(21歳、花の女子大生☆)とその親友に、謎の企画へのお誘いをしてきた。



「はい?どゆこと?」

『あーーーもう最高。わたくし一度こういうことやってみたかったんですよね。TRPGのゲームマスター的なポジションとかやりたすぎて夢に見てましたもん』

「独り言良いから!話進めて!」

『いやその、神様の世界って娯楽が無いに等しくて…………。1000年前紫式部ちゃんに「わたくしの性癖に基づいた物語を書いて!!」って規律破ってお願いするくらいには切羽詰まってるんです』

「もー早口で喋んないでよぉ。あとさっさと話進めてよぉ」

『そしたらですよ!紫式部ちゃん、わたくしの依頼以上のモノ書いてくれたんです!『源氏物語』って言うんですけど、主人公が女性たちに向けたり向けられたりするクソデカ感情がもうわたくしの琴線にぶっ刺さって…………。しばらくお詣りに来た人たちの事放り出して妄想に耽ってました』

「それって神様としてどうなの!?」

『でもそろそろ消費豚じゃなくてクリエイターになりたい!って思ったので、このバトロワ企画を発案したんです。今回はちゃんと神様本部の許可取ってますよ!』

「あーやっと本題入った………でもごめん対応疲れた。六華パス」

「はぁい」



関係性オタクを醸し出すクソデカ神のフィーバータイム。

あたしも話を聞こうとしたけどどっと疲れてしまい…………隣に居る黒髪で三つ編みな親友の助けを求める。



「クソデカ神ちゃん。今のお話をまとめると、『クソデカ神ちゃんが自分の性癖を満たす為にバトロワを企画して、私と咲良を巻き込んだ』ってことで良いかな?」

『す、すばらしい!さすが小説家さん!!』

「えへへ、照れちゃうよ!」

『濡れ場の描写だけでなく話を纏めることも得意だったとは!』

「え!?私のことディスってる!?」

『そんなわけ無いですよ!貴女の―――桑原六華さんの小説から得られるクソデカ感情成分に、わたくしは日々癒やされているのです!』

「く、クソデカ感情成分………?私そんなの盛り込んでたかなぁ………?」

『ええ盛り込んでます!わたくしには分かりますよ、その肥大化しながらも決して表には出せない混沌とした感情を…………。折角ですし、今ここで解説してもよろしいでしょうか??』

「ごめん止めよう!?隣に私の親友居るんだけど!?聞かれるの恥ずかしいよ!?」

『そ、そうですね!ではそれは別の機会にするとして、改めてゲームルールの確認です』



…………いやはや、陽キャかつコミュ強かつ人気小説家(割とエロ寄り)かつ私の親友、桑原六華のことをここまで焦らせるとは。

あたしはそのオタクパッションに恐れ慄きながら、クソデカ神の話に耳を傾ける。



『本ゲーム、『クソデカ感情♡バトルロワイヤル』は、お二人のようなお互いのクソデカ感情がぶつかり合っている方々が7組集まり、それぞれ戦って頂くというルールです。これによって現実で死ぬ………とかは無いので、楽しくゲームに臨んでください』



「ん!?クソデカ感情!?あたしが!?」

『もちろんお持ちでしょう?別に隠すことないじゃないですかぁ〜。お互いがお互いのこと大好きですもんねぇ〜』



開始早々、単刀直入に放たれた恥ずかしい一言に、あたしは頬が真っ赤になる感覚を覚える。





『べ、別に!?あたしは確かに六華のこと大好きだけど、親友としてってことだし、そんなの別に普通で―――』




「…………///」

「照れないで六華!?」

『わぁい♡クソデカ感情ポイント溜まりました♡』

「あんた煽ってんの!?」



あたし以上に顔を真っ赤にする六華を見ると、ますます頭が沸騰してくる。



いやでも冷静に考えると、確かにあたしから六華への愛情って重いのかも………。


六華があたし以外の友達と仲良くしてると、嬉しいんだけど少し嫉妬しちゃうし。六華ってあたしより陽キャで友達多くてみんなの人気者だから、あたしが六華の一番の親友でいたい!って思っちゃうし………。

六華は間違いなく優しいけど、みんなに優しいから。いつも、あたしが一番じゃないかもって不安がある。


こういうことをクソデカ感情っていうのかなぁ…………。




『ちなみに、このバトロワでは参加者に神様から戦闘スキルを贈呈するんですが………。

 クソデカ感情がより強い方が前衛、もう片方が後衛になっています』

「いやなんで」

『愛が重い方が想い人を護るシチュエーション、すこ!!』

「思いっきり性癖ッ!!」



うーん、なるほど。クソデカ感情―――要は「愛情」が強い方が前衛ってことか。


すると………まぁ…………






「じゃああたしが前衛か…………」









『いや、前衛は六華さんです』







「え?」





すると、六華はあたしの手を取り、笑顔で告げる。







「それなら、私が前衛に決まってるじゃん♡」























【場面を巻き戻し、視点変更。:

 Player2 浜菊咲良→Player1 桑原六華】



『ぴんぽんぱんぽーん。お二人は、わたくしの手によってこの部屋に閉じ込められました』



暗闇でも咲良の体温を感じる。すき。



『申し遅れました。わたくし、この世界の八百万の神の一柱である、躯祖出化感帖之命と申します。挨拶遅れて失敬失敬www』



咲良の困惑した息遣いを感じる。すき。



『お二人とお話しするのなら、わたくしの顔を出さないのは社会人として不適切でしょう。ひとまず正面のスクリーンをご覧ください。…………あ、別に【目星】とか振らなくていいですよデュフフwww』



溜息をついた咲良の茶色くて長い髪が肌に当たる。すき。



『あー今画面点灯しましたね。

 どうもどうもどうも。改めて、わたくしが躯祖出化感帖之命と申します。我のことはクソデカ神とお呼びくだされwww』



私達は、先ほどまで2人でデートしていた。

どうせ鈍い咲良は友達との遊びって思ってるけど、私にとっては愛する女の子とのデート。至福の時である。



…………しかし、邪魔が入った。



『という訳で、浜菊咲良ちゃん。そして桑原六華ちゃん。

 お二人は、わたくしが開催している《クソデカ感情♡バトルロワイヤル》に参加して貰います』



―――黒髪ボブロリ神。殺す。いつか絶対に殺す。私の癒しのひと時を邪魔しやがって。私がどれだけ咲良のこと好きか分かってんの?クソデカ感情とか言ってるけどそんな範疇に収まらないくらい好きなんですけど?私がヘラったとき毎回電話かけてますけど?私が楽しかった時毎回感情共有してますけど?私寝る前に毎回この子と一緒に死ねたら良いなって妄想してますけど?私が1人でむらむらした時毎回この子で抜いてますけど??



「はい?どゆこと?」

『あーーーもう最高。わたくし一度こういうことやってみたかったんですよね。TRPGのゲームマスター的なポジションとかやりたすぎて夢に見てましたもん』

「独り言良いから!話進めて!」

『いやその、神様の世界って娯楽が無いに等しくて…………。1000年前紫式部ちゃんに「わたくしの性癖に基づいた物語を書いて!!」って規律破ってお願いするくらいには切羽詰まってるんです』

「もー早口で喋んないでよぉ。あとさっさと話進めてよぉ」

『そしたらですよ!紫式部ちゃん、わたくしの依頼以上のモノ書いてくれたんです!『源氏物語』って言うんですけど、主人公が女性たちに向けたり向けられたりするクソデカ感情がもうわたくしの琴線にぶっ刺さって…………。しばらくお詣りに来た人たちの事放り出して妄想に耽ってました』

「それって神様としてどうなの!?」



ああもう好き。クソ神だろうとちゃんとツッコミしてあげる咲良の優しさが好き。

私お笑い好きだから結構軽口叩くこと多いんだけど、咲良って毎回ツッコんでくれるんだよね。あとそれが面白くないって自分で気付いた時の照れ隠しの笑顔が一番好きかもしれない。世界で一番好き。紛争解決できると思う。



『でもそろそろ消費豚じゃなくてクリエイターになりたい!って思ったので、このバトロワ企画を発案したんです。今回はちゃんと神様本部の許可取ってますよ!』

「あーやっと本題入った………でもごめん対応疲れた。六華パス」

「はぁい」



………めんどくさい神様との会話対応だとしても、そんな愛すべき女の子からの頼みだったら断るわけにはいかない。

一応話の流れは把握してるし、いつも通りテンションを上げて陽キャムーブしつつ、適当に話をまとめておこう。大体内容は分かった。



「クソデカ神ちゃん。今のお話をまとめると、『クソデカ神ちゃんが自分の性癖を満たす為にバトロワを企画して、私と咲良を巻き込んだ』ってことで良いかな?」



………やっぱ字面最悪だな。リアルで死なないとは言ってたけど、やっぱりコイツ自体は後から処すべきなのでは?もし咲良が怪我したらどうすんの?責任取れんの?ぁ゙ぁ゙ん?



『す、すばらしい!さすが小説家さん!!』

「えへへ、照れちゃうよ!」

『濡れ場の描写だけでなく話を纏めることも得意だったとは!』

「え!?私のことディスってる!?」



ん?やっぱ今すぐガチで殺そうかな?



『そんなわけ無いですよ!貴女の―――桑原六華さんの小説から得られるクソデカ感情成分に、わたくしは日々癒やされているのです!』

「く、クソデカ感情成分………?私そんなの盛り込んでたかなぁ………?」

『ええ盛り込んでます!わたくしには分かりますよ、その肥大化しながらも決して表には出せない混沌とした感情を…………。折角ですし、今ここで解説してもよろしいでしょうか??』




……ちょい待って。

このクソデカ神、私が小説に注ぎ込んだ有りっ丈の感情を読み取ってくれてる。それはすごく嬉しい。少なくとも私が手を下す必要はないみたい。むしろ私の味方だと判断できる。


………でもさ。

その感情向けてる相手が居る状況でこの話すんの、流石にノンデリすぎない………?




「ごめん止めよう!?隣に私の親友居るんだけど!?聞かれるの恥ずかしいよ!?」

『そ、そうですね!ではそれは別の機会にするとして、改めてゲームルールの確認です』




…………あっぶない。そういう話はちゃんと私の口からさせて欲しい。


ま、そういう話を口からした後は、あの子の口を奪うんだけどな!




『本ゲーム、『クソデカ感情♡バトルロワイヤル』は、お二人のようなお互いのクソデカ感情がぶつかり合っている方々が7組集まり、それぞれ戦って頂くというルールです。これによって現実で死ぬ………とかは無いので、楽しくゲームに臨んでください』

「ん!?クソデカ感情!?あたしが!?」

『もちろんお持ちでしょう?別に隠すことないじゃないですかぁ〜。お互いがお互いのこと大好きですもんねぇ〜』




「べ、別に!?あたしは確かに六華のこと大好きだけど、親友としてってことだし、そんなの別に普通で―――」




え!?まじ!?私のことそんな思ってくれてんの!?


てかその反応私のこと親友以上に感じてるってことじゃん!?もしかしてルート開放ある!?私と咲良が付き合うトゥルーハッピーエンドある!?えへへ…………




「…………///」



「照れないで六華!?」

『わぁい♡クソデカ感情ポイント溜まりました♡』

「あんた煽ってんの!?」



よくやったクソデカ神。今度たくさんお布施してあげるよ。



『ちなみに、このバトロワでは参加者に神様から戦闘スキルを贈呈するんですが………。

 クソデカ感情がより強い方が前衛、もう片方が後衛になっています』

「いやなんで」

『愛が重い方が想い人を護るシチュエーション、すこ!!』

「思いっきり性癖ッ!!」



うーん、なるほどね。クソデカ感情―――要は「愛情」が強い方が前衛ってことになるわけだ。

すると………まぁ…………私かなぁ………








「じゃああたしが前衛か…………」





は?




…………!!それって私のことめちゃくちゃ思ってくれてるってことじゃん………!!今日最高の日じゃんもぉ……!!










『いや、前衛は六華さんです』





「え?」




そんなこんなで有頂天な私。

当然、前衛がどちらかなんて分かりきっている。

そして困惑する咲良の手を取り、笑顔で告げた。








「それなら、私が前衛に決まってるじゃん♡」

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