第2話 お風呂大作戦

渚ちゃんがうちに来てから、一週間たった。


あれからというもの、仲良くなろうと頑張ってはいたが、あまり状況に変化はない。


義姉妹…義兄弟もそうだが、やはり色々難しい。


当たり前といえば当たり前だ。


ある日突然、全く知らない人と、同じ屋根の下で住むだけでなく、家族になってしまうのだから。


ともかく、今の最重要案件は、渚ちゃんと少しでも仲良くなること、そしてあわよくば、家族として認められてもらうことだ。


そうは言ったものの、実際にどうすればいいのだろうか…


そんなことを考えながら、自室のベッドの枕にうずくまっていたら「トントン」と、ドアがノックされる。


「はぁい」


うちの母は、ノックなんてしない。となると、義父か渚ちゃんなわけだが…


ドアが開くとそこには、ちっちゃくてかわいい生物が、ちょこんと立っていた。どうやら後者のようだ。


「どうしたの、こんな時間に?」


そもそも、私の部屋に来てくれることなんて今までなかったし、時計はもう少しで七を指そうとしている時刻だ。


どこかに行きたいという時間帯でもないし…全く見当がつかない。


そんな事を考えながら、渚ちゃんを見つめていると、ようやく渚ちゃんは、重たそうな口を開けた。


「そ、その…春奈さんと…お風呂に入りたいなー、なんて…」


「あー、お風呂…………お風呂!?」



まて春奈。冷静になれ。


客観的に考えろ、これはただ単に姉妹がお風呂に入るだけ。


何も、緊張することはないし、特別何かを思うわけでもない……普通の人なら。


そうだ。私は普通じゃないから困っているのだった。


大丈夫かな、私捕まらないかな、みたいなことを考えてから、決心をつけてお風呂場のドアを開ける。


「ガラガラ」と音を立てた、ほんの少し年季の入った半透明のドアを開けた先からは、熱気と湯気とに包まれた、いい匂いが私の鼻孔を刺激する。


恐る恐る湯気を掻き分けながら進んでいくと、渚ちゃんが、お風呂場用の小さなイスにちょこんと座っていた。


体の奥の方からやってくる血を、鼻の中間ぐらいで気合と全神経でどうにか止める。


そして、壁の鏡に反射して写る渚ちゃんの裸体は、とても美しくて可愛かった。


ただ、ずっと眺めていたら、それでこそ犯罪になりかねないので、目をそらしながら、空いている方のイスに私も座る。


…にしてもだ、ぺったんこに等しいと思っていた、渚ちゃんのお胸は、思ったよりも膨らんでいて、可愛くて……。


お胸以外の特徴を挙げるとするなら……毛がない……。


……どこの、とは言っていないので諸々は許してほしい。


「と、とりあえず、体は私が洗ってあげるよ」


正直私は、何時間でもこの状況を維持できる自身があるが、渚ちゃんにのぼせてもらっても困る。


なので、止まった時間を動かそうと、髪はすでに洗ったように見えたので、そんなことを言ってみた。


「じゃ、じゃあよろしくお願いします」


が、よくよく考えると「体を洗ってあげる」は、あまり良い策ではなかった。


なぜなら、体を洗うにあたって、渚ちゃんのあんなところや、こんなところを触らなければならないからだ。


そもそも、人の体なんか洗ったことがなかったので、少し戸惑ったあとに、とりあえず背中から、うで、あし…と洗っていった。


そして、お腹辺りから上に手を動かした瞬間、全身に衝撃が走る。


ふわふわだ。何がとは言わないけれども、ふわふわだ。小さいながらも。


いや、ふわふわ度合いで言ったら、私のほうがだん上だ。


しかし、言葉では言い表せない良さが、渚ちゃんの体にはあった。


そして、そのままの勢いで、腕を下に動かしたところで、渚ちゃんの手が私の腕の動きを止める。


「そ、そこは自分で、洗います…」


「あっ、はい」



「ザバァ」と、お湯がお風呂の外へ流れ出ていく。


流石に2人は少し狭い…というか、そこを気にしている場合ではない。


渚ちゃんと肌が密着しているのが一番の問題だ。


とりあえず、1回深呼吸をしてから、渚ちゃんに気になっていたことを聞いてみる。


「でも、なんでお風呂だったの?」


「…その、アニメとかでよくあるんです…仲を深めるときに、お風呂に入るっていうシーンが…」


私は、アニメや漫画には疎い方だ。


だが、雪季に勧められて、某うさぎをご注文しちゃうアニメは観たことがある。


たしか、それでも最初の方はお風呂によく入っていたような気もしなくもない。


「だ、だから…お風呂に誘ってみました…」


ん?待てよ。


つまりは、渚ちゃんも私と仲を深めようと、思っているというわけではないか。


そう思うと、なんだか嬉しくなってきた。


「そ、その迷惑でしたか…?」


渚ちゃんは、少し頭を傾けて、こっちを上目遣いで見てくる。


そして、私は死にそうになる。


「ぜ、全然全然!いつでも、誘ってよ!」


なんとか意識を保ったまま、そんな事を私は言う。ちなみに、これは下心とかそういう話ではない。


「!…はいっ!」


今日一元気よく渚ちゃんは返事をする。


そしたら、お互い気恥ずかしくなってきて、お風呂以外の熱さも加わり、のぼせる一歩手前ぐらいまで来てしまっていた。


「そ、そろそろ出ましょうか……お姉ちゃんっ」


「!?」


どうやら、渚ちゃんのお風呂大作戦は大成功のようだ。

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