昨日の宴会 後編



 それから膠着状態が少し続いた。次に話し出す誰かを皆がみんな待っているかのようだった。



「俺もそういうのは分からないな。初めて会ったばかりの神たちだけど、疑いたくないし」



 露の神はそう言い残すと足早に帰っていく。



「私は時間を頂きたいです……、少し混乱して」



 ピリも部屋へ帰っていく。



「私も……」



 そよも宴会会場を出ていった。





 残ったのはアマテラス、ツクヨミ、ヒノコの三体の神。



「姉上、どうするんです?」



「混乱するのも無理はありません。皆さんの言っていたこと全て正しいですから」



「犯人探しするんですか?」



「苦しいかもしれませんが、そうせざるを得ません。危険を持ち込むわけにはいきませんから」



「そうですね……」



「とにかくお食事をいただきましょう。冷めてしまいます。ヒノコさんはどうなさいますか?」



 アマテラスは席に座りながらヒノコに問う。ツクヨミに声をかけなかったあたり、彼はアマテラスと食事をすると思っていたのだろう。



 ツクヨミは席に座って何か書き物をした後、食事をし始めた。



「私もいただきます」



 ヒノコも残って夕食を取り始めた。



 しかし誰一人食事中声を出すことは無かった。



 ツクヨミとヒノコは食事が終わるとすぐに会場を出ていった。






 残ったアマテラスは旅館のみんなに向き合い頭を下げた。



「申し訳ありません。こんなことに巻き込んでしまって……」



「そんあ、アマテラスさんのせいじゃないですよ!」



「そうです。頭をあげてください」



「ありがとうございます」



 微笑むが、アマテラスの表情は暗かった。



「女将さん、残ったお料理はあとで皆さんのお部屋に運んでいただけますか?」



「かしこまりました」



 女将は深々とお辞儀した。



 テーブルの上に何人かの残された料理、それを悲しそうに片付けるカゲロウ。みんなで楽しく食べてほしかったのだろう。



 食器を片付ける音が妙に響いていた。












「……って感じかな」



 アスカは話し終えると窓の外を見た。曇天の寒々とした空が見える。



「そうですか……、大変でしたね」



「せっかくみんな打ち解けてきた感じだったのにね。仕方ないけど」



 アスカは寂しそうに笑う。




「やっぱり旅館で働いているから、お客さんたちには笑顔でいてほしいんだよね。幸せな時間を提供することが私たちの働きがいっていうか、幸福っていうか。だからあんなに重い空気の中食事しているのを見るのってなかなかないから……正直きつかったな」




 いつも元気なアスカが見せる気弱な言葉。どこまでも彼女は優しい。常に宿泊客の笑顔のために動いているのだ。きっと誰にでも。




 それができないなら落ち込むこともある。



 彼女も一人の女性で、人間なのだ。




「さ、私は大学に行くね。ごめんね急に家に来ちゃって」



 アスカは立ち上がって頭を下げた。



「いえ、そんな。朝早くからありがとうございました」



「あんまり落ち込んでちゃだめだね! それこそ旅館で働けないよ!」



 アスカはいつもの笑顔を見せた。



「アスカさん……」



 慧はアスカが無理しているのではないかと思った。しかし言葉は見当たらない。






「慧君、今度女の子を部屋に連れ込むときは他に女の子が入ったことあるって言わないほうが良いヨ! ケイコちゃんをベッドに乗せたことあるとか」



 アスカは茶目っ気たっぷりと笑った。




「ハハハ……予定はございません。それにケイコさんは勝手にベッドに乗ってたんで

す! 僕はそんなつもりはございません」




「おや。そういうことにしておきましょうか」







「あと連絡先を交換しておきましょう。今後何かと役立つかもしれませんから」



 またアスカに家に突然来られたらたまらんと思い、慧は携帯をアスカに見せた。



「オッケー」



 二人は連絡先を交換した。





 アスカは祖父母にお礼をした後、慧の家から登校していった。



 慧の心配もよそに、彼女はいつも通りに振舞う。切り替えの早さは大したものだ。

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