男子たちの話
「もうお昼休み終わるね、次授業あるんだ」
神妙な面持ちから一転、笑顔に変わり慧に挨拶する。
「じゃあね!」
アスカは慧の手を振り、奥にいる他の男子に笑顔で会釈をすると颯爽と去っていった。
(これはすごいことになったな)
このままどうなってしまうのか。
「石岡、あの人と知り合いなの⁉」
慧が席に戻ると男子たちは身を乗り出して訊いてきた。事情を知らない彼らとの熱量、ギャップに慧は戸惑う。
「うん、ちょっとね」
「かわいいじゃん!」
「かわいかったな~」
恥ずかしがる様子もなく話が盛り上がっている男子たち。
高校生の時にはクラスメートの男子はヒソヒソと好きなクラスの女子について話していたものだ。
まさか自分がこの話題に参加することになるとは慧は思わなかった。
破天荒な性格はあるが、見た感じのアスカの持つ雰囲気はクラスの中心にいる派手なタイプの女子ではない。どちらかというと優しく面倒見のいい柔らかいタイプだ。
要は男子皆から好感を持たれるタイプの女子。
モテそうなのは慧にもわかる、見た目の部分は。
「どういう関係なんだよ?」
「近所に住んでるんだよ」
バイト先が同じだと言うとまた色々聞かれて面倒なことになりそうな気がするので、咄嗟に小さな嘘で彼らをかわした。
「付き合ってるわけじゃないのか」
ちょっと嬉しそうな顔をする同級生。
「付き合ってない付き合ってない」
慧は手をヒラヒラと振る。
「恋人とかいるのかなぁ。知ってる?」
「知らないけど、いないんじゃないかな」
アスカはいつも旅館で働いている。恋してるなどの話をしたことは無いが、恋愛をしている時間などなさそうに感じる。
あれでデートもしているとしたら、アスカは二人いないと計算があわない。
(でも確かにアスカさんって恋人いるのかな。タイプとか聞いたことないけど。どんなのが好みかな。意外と面食いとか? アスカさんの破天荒な性格からすると一緒にノリに乗ってくれるギャル男みたいな奴かもな)
今度訊いてみるのも面白そうだと慧は思った。
「大丈夫、お前に惚れることはないから」
「それはわからんゼ!」
「わかるわ!」
ドッと笑いが起こる。
男子特有のノリで大いに盛り上がった。
そのノリに少し慧は安心感を覚えた。
(同年代の男子との会話ってこんな感じかぁ、なんか安心するわ。旅館の日常っておかしいもんな。アスカさんは同年代だけど、女子だしなんかいろいろ化け物だし。他の人もとんでもない大物だし。女将さんに、カゲロウさんとかコロちゃんズとか、人間じゃないし)
同世代の等身大の姿に、少し不安な気持ちが軽くなった。
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