新しい手紙
「慧君ちょっとちょっと」
誰かがまた慧を呼んだ。
同級生との会話に夢中になっていたため気のせいかと思ったが、また名前を呼ばれた。
「慧君! ちょっとちょっと!」
声の主はアスカだった。
アスカが手招きして慧を呼んでいる。
「アスカさん。ちょっとごめん」
慧は同級生に声をかけて席を立ちアスカの方へ向かう。
「どうかしました?」
「こんなのがアマテラスさんの部屋に届いたらしいの」
そう言ってアスカは慧に手渡した。
「手紙ですか?」
封筒に入った手紙、慧はそれを開く。
―目星は尽きませんか? このままだと本人の命が危険かもしれませんよ?―
「これは……!」
犯人からの手紙だろう。
命という一文字に目が入る。
慧は絶句した。
「それで、アマテラスさんは大丈夫ですか?」
真っ先に気になるのは彼女の状態だった。
彼女が取り乱すことになればまずい。世界の危機になりかねない。神話にあった彼女が再び岩戸の中にかくれることになったら大変だ。世界は闇に包まれてしまうのだろうか。
「それは大丈夫だと思う。冷静だったよ」
「昨日届いたんですか?」
「そう、それを見たアマテラスさんが教えてくれたの」
アスカはいつも通りに話す。
「でも、うかうかしてはいられないってことだね」
緊張が走った。
「ですね」
これはただのいたずらではない。
神の一つの命がかかっているのだ。
「できることをやらないと」
慧はここであることを思い出した。
「あの、もしも本物の神が旅館の近くにある『穴』に落とされていたら……?」
穴というのは以前津軽にツアーで見せてもらった旅館の周りの土地にある「落ちてしまったら戻ってこられない穴」のことである。
「神様でも無事ではないんじゃないかな。わかんないけど」
「すでに落とされている可能性はありませんか?」
「無くはないけど、この文面を見るにそれはないんじゃないかな。犯人はアマテラスさんが見つけ出せるか挑戦してるわけだし。無事だとは思うよ……」
そこまで言ってアスカは少し言葉に詰まる。
「ただ、命はあるけど、ケガとかは負ってるかも……」
言いづらそうにそう言った。
「タイムリミットの今週末までは生きた状態にはしてあると思う。それを過ぎたらあとは分からないね。そのままにしておく理由もなくなるわけだし」
「急がないといけませんね」
「だからね今夜このことを皆に公表しようってことになったの」
「偽物がいるってことをですか⁉」
「うん、もう隠しておく方が危ないんじゃないかって。みんなで話して今夜発表しようってことになったの」
つまり一つ大きな山場を今夜迎えることになる。
「明日、どうなったか教えてもらえます?」
「わかった」
アスカは力強く頷いた。
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