ちょっと考えてみる
結局、犯人を見つけ出すことはできなかった。
有益な情報も得ることはできなかったと感じる。
慧は少し心にモヤっとしたものを感じた。
このまま終わりで、あとは皆に任せてしまっていいのだろうか。
この事件の結末を自分も近くで見届けたいと思った。
だから、
「あの……ちょっといいですか?」
慧は女将へ話しかける。
「女将さん、来週も来て良いですか? まだ事件は終わってないですし」
「もちろん、助かるよ」
女将はためらう素振りもなく、慧に言った。
「良いんですか⁉」
「えぇ、また来週ね」
女将は小さく手を振った。
まさか自分がこんなことを女将へ話すことになるとは思いもしなかった慧。あの日夏休みからは考えられない変化だ。
慧は今夜の宴会の様子を思い出す。
今日の様子を見て、アマテラスに届いた手紙は誰かのいたずらだったのではないかと慧は思った。
いたずらにしては悪質だが、犯人があの中にいるのか分からない。怪しくも見えるし、怪しく無くも見える。
「ちょっと考えてみよう」
それぞれの神について考えてみる。
しいていえば、特に怪しいのは露の神であろうか。彼の行動は謎が多すぎる。どうしてそこまで山の中へ入るのだろうか。
そよ風の神は子どもらしい感じである。見た目以上に幼いかもしれない点が怪しいと言えば怪しい。
火の粉の神は陽気なイケイケ系で怪しい、わけではない。しかし慧が気になったのは今日アスカと砂粒の神を廊下で見ていた時に現れたこと。彼女は二人の会話を聞いていたことになる。彼女はアスカと慧の行動を観察していたのではないだろうか。また砂粒の神について噂を作り出し疑惑の目を彼に向けさせている可能性もある。
その砂粒の神、彼も気になる点はある。あの大きなカバン、なぜあんなものを持ち歩いていたのだろうか。あのカバンの中身とはいったい……。しかし慧とアスカは砂粒の神と直接やり取りをしていたわけではない。だから彼がどういった性格なのかは判断が難しい。
ツクヨミについてはアマテラスの弟ということもあり、犯人がなりすましをするにはバレやすいので避けるのではないかと思う。しかし彼が何者かと組んでいることもありうる。連絡方法はツクヨミが書いていた紙に指示があるのかもしれない。アスカがツクヨミに近づいたときに彼は紙をササっとしまっていた。あの行動は人に見せられる内容ではなかったからなのではないか。
ピリは一見気になる点はないが、将棋の最中のあの目線。彼女にみられるとどうも考えていることが読み取られてしまう気がする。誰を疑っているのかがわかるのなら犯人は先読みで行動することもできそうだ。アスカと慧の二人を相手できるほどの器用さなので油断できない。
そこで慧は力を抜いた。
「なんてね、考えれば何でも怪しく見えるけど……」
今回の宴会でも怪しい雰囲気はなかったが、神々はほとんどは初対面だったことを思い出す。
それに正直あの中に偽物がいるとは考えたくはなかった。みんな黄昏館に来てくれた大切なお客様なのだ。
ただのいたずらで終わればいいが……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます