宴会準備
すでに料理の準備はされている。彼らの到着を待つだけだ。
「来ないですね」
「そうだね。まぁまだ時間はあるけど」
アスカは時計を確認する。まだ宴会開始予定時刻まで三十分はある。誰が先に姿を現すだろうか。
食事会場にはツクヨミが一番乗りで入っていた。
「いらっしゃいませ、ツクヨミさん」
「どうも……」
ツクヨミは小さく会釈して席に座った。
そしてまた彼は一人うつむき、何かを書いている。
次に現れたのは、砂粒の神。
「いらっしゃいませ」
慧とアスカは丁寧にお辞儀をする。
「お願いします」
砂粒の神はサラッとそう言い席に座った。
もちろんあの時運んでいたカバンは持っていない。
慧とアスカが唯一話せなかったのが砂粒の神である。
彼については未だに謎である。変な者との付き合いをしているという噂は本当なのだろうか。
慧はツクヨミと砂粒の神の様子を見る。
「……」
「……」
二人は一度会釈をしたくらいで、何も言葉を交わさない。
遠目から見ても二人の居心地の悪さがよくわかる。
ツクヨミはずっと書き物をしている。
砂粒の神は両手の指を絡めながらそれを見つめ、時間が経つのを待っている。
ただ静かな空間がここにあるのみだ。
誰も話さない。
時間が過ぎるのが長い。
(気まずい、空気が重い。女性陣が来てくれれば明るくなるのかな)
ガラガラと宴会場の戸が開いた。また一人神が入ってくる。
「ヒノコさん、いらっしゃいませ」
火の粉の神、ヒノコが姿を現した。やはり大きめの浴衣を身に着けている。胸元に小さなネックレスが掛けられている。
「はーい! お、あたしは三番目かぁ」
ニコニコしながら会場に入ってくる彼女。少し場の雰囲気が和らいだ。
「先に飲み物聞いちゃおうか?」
「はい」
慧とアスカは皆から飲み物を訊いて回る。
「お飲み物何になさいますか?」
「この日本酒でお願いします」
ツクヨミは東北地方で作られている日本酒を注文した。
「あたしはシードルをもらおうかな」
ヒノコはリンゴから作られたお酒を注文した。
「リンゴジュースを」
砂粒の神はノンアルコールを注文した。
見た目で判断するつもりはないが、砂粒の神がお酒を飲まないのは少し意外だと慧は思った。
その後も続々と他の神が入ってきた。
「皆さんいらっしゃいませ」
「こんばんは~」
静電気の神こと、ピリはゆったりと手を振りながらアスカと慧、女将に挨拶した。
「お腹空いたよー!」
そよ風の神こと、そよは走って席に座る。そよの後ろからター坊とコロちゃんズも一緒に入ってきた。
(随分仲良くなったな)
「よろしくお願いします」
アマテラスは丁寧に旅館の従業員に挨拶をしていく。彼女の頭のかんざしがきらりと光っている。
「よろしくお願いします」
女将も丁寧に彼女に返す。女将のかんざしもピカリと光った。
アマテラスは温泉に入ってきたのか少し顔を赤かった。
ピリとアマテラスは日本酒を、そよはみかんジュースを頼んだ。
「本当に楽しみだなぁ!」
「……」
「……」
盛り上がる女性陣を置いておいて、砂粒の神とツクヨミは黙って一人で過ごしている。
ツクヨミは黙々と書き物をしている。
そよはそんなツクヨミに近づいていく。
「お兄さん、何書いてるの?」
そよはツクヨミに話しかけている。彼の手を掴み身を乗り出している。
ツクヨミはそよの押しの強さに参っているようだった。
宴会開始時間十分前には露の神を除いた全員が揃っていた。
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