庭掃除



 旅館には神以外の宿泊客もいる。アスカと慧はチェックアウトした後の部屋の片付けもしながら捜査をしていく。



 いつもより頭が忙しい。



「慧君、今日はお庭のそうじもあるヨ!」



 アスカが慧に大きなほうきを手渡した。



 津軽がいないので、今日は庭掃除を頼まれた。



 季節は秋なので枯れ葉が庭に落ちている



「津軽さんなら、あっという間に集め終わっちゃうんだけどね」



 津軽は人並みなずれた(?)動きができるので、落ち葉集めはお手の物だろう。



「落ち葉はここに入れておけばいいんですよね」



 落ち葉は木材で作られた簡易的な囲いの中に入れていく。




 まだ予定ではあるが、この集めた落ち葉と庭の畑で育てたサツマイモで焼き芋パーティーをしようと旅館のみんなで計画中である。そのため落ち葉は一つの場所に集め

ておいてある。




「おや? あれはツクヨミさん」



 ツクヨミが庭に出てきて、外のベンチに座った。



 寝起きのままの姿なのか、髪はぼさぼさのままである。



 ツクヨミは懐から何かを取り出し書き物をしているようだ。



「ツクヨミさん、おはようございます。よく眠れましたか?」



 アスカはツクヨミに挨拶をする。



「あぁ、おはようございます。少し夜中起きてしまいましたが、よく眠れました」



 ツクヨミは手元の紙をサッと折りたたんだ。



「ツクヨミさん、何されてるんですか?」



「あぁ、日記みたいな……、物語みたいなものですよ。昨日あったこととかを書き溜めているというか」



 つまり彼の書いたものが神話として受け継がれているということになる。



 慧とアスカは神話の誕生を目の当たりにしているということになる、かもしれない。



 アスカに訊かれたのでツクヨミは紙を広げなおして再び書き出した。



 ツクヨミが何かを書いた紙はいっぱいになったようだった。



 ツクヨミはその紙を空に向けて伸ばす。



 すると、

「紙が光ってる?」



「ううん、むしろ燃えている?」



 紙は緑色の火のようなものに包まれて消えていった。



「どうなったんですか?」



「送るべきところへ送ったんです」



「さすが神様」



 アスカが手を叩いて笑う。慧もつられて拍手する。



 ツクヨミは恥ずかしそうに微笑んだ。



 アスカと慧が旅館に入るためにツクヨミから離れると、彼はまた熱心に書き物を始めた。







 二人が中に入ると、ちょうど温泉から上がった露の神が廊下から歩いてきているところだった。



 ここがチャンスとばかりにアスカは挨拶に行く。



「あ、露の神様! おはようございます!」



 アスカが元気よく露の神に近づいていく。



「おはよう」



 お風呂上りの彼はさわやかに片手をあげてアスカに応えた。



「昨日お持ちできなかったのですが、旅館でウェルカムサ―ビスを始めたいと思っていまして紅茶の味見をしてもらえませんか?」



 慧は露の神に尋ねる。



「紅茶か……」



 少し考えんで、

「冷たいのもあるかな?」



「えぇ、冷たい紅茶も大丈夫ですよ」



「それなら貰えるかな?」



「はい、かしこまりました」



「熱いのはあまり飲みませんか?」



 アスカは尋ねる。



「露の神なだけあって冷たい飲み物の方が好みでね」



 彼はニコリと笑った。



「なるほど~」



 アスカもニコリと笑顔を返す。



 慧が紅茶を淹れて持ってくるのを、アスカは待っていたようで話をし始めた。

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