次の日も慧は旅館へやってきた。



 今朝は水分を少なめにしてきた。



「昨日はトイレに行く回数凄かったからな」



 夜何回もトイレに行くので祖母からは「お腹でも痛いのか」と心配されてしまったほどである。



 そのため今日も紅茶をたくさん飲むことを予想して水分を控えめにしてきたのである。



 毎朝のカフェラテの一杯も我慢してきたほどである。



 慧が朝旅館に来ると、庭の方から誰かが歩いてくるのが見えた。



 それは昨日会えなかった神の一人だった。



「おはようございます」



 慧が声をかけると、ギョッとした表情を見せた。



「あ! あぁ……おはよう」



 慧はその姿が近づいてきて少し驚いた。



 彼の姿は泥だらけ、着物は泥などで汚れていた。神の姿とは思えない。



「どうかなさいましたか?」



 大人がここまで泥だらけになるのは珍しい。何かあったのだろうか。



 慧がそう言うと、神は焦っているように首を振った。



「いや……何でもないよ。すこしその辺を散策していたら汚れてしまったんだ。温泉に入ってさっぱりするよ」



 そう言って足早に旅館の中に入っていった。





 彼は昨日慧とアスカが会えなかった神の一人である。



(確か、髭を生やした神様が砂粒の神ってヒノコさんが言ってたから、彼は露の神様ってことか)



 昨日の夕方出かけて、今日の朝早くからまた外出をしていたのだろうか。



 それにあの汚れた体。何をしていたのだろうか。



 彼の手も泥で汚れていた。散策をしていたといっていたが、ただ歩くだけであそこまで汚れることはあるだろうか。



 またあとで話を聞きに行ってみようと慧は思った。



 しかし事情を知っているだけにすこし怪しく感じてしまう。



 彼に会うには他の神よりも緊張感をもって臨まなければならないだろう。



「そういえば津軽さんいないな」



 いつもなら庭の手入れをしている津軽の姿がどこにもない。



 慧はきょろきょろとあたりを見回す。



「休みなのかな。珍しい」



 津軽がいないのは見たことが無かった。どこかに行っているのだろうか。




 この旅館は女将の意向で幽霊のケイコにもしっかりと休みがある。だから津軽にも休みがあっても不思議ではないのだが、いざ彼女がいないと不思議な感じがするものだった。




 慧の中で「ほほほ」と朗らかに笑う津軽の顔が浮かんだ。


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