静電気の神
「ささ、続いていってみよう!」
コンコンコンとアスカはノックする。
「…」
部屋の中から返事はない。
しばらく待ってみても何も起こらなかった。
誰も中にいる気配もない。
「うーん、部屋にいないみたいね」
確かここはさわやかな見た目の男性の神の部屋だったはずである。彼は今不在とい
うことだろうか。
別に部屋にいないのはどこも不自然ではない。
まだ陽も暮れていない、この辺を散策したりする可能性もある。
いつ帰るのかはわからないだろう。
「仕方ないですね。次の部屋に行きましょう」
二人は部屋を後にした。
隣の部屋をノックする。
今回はすぐに声が返ってきた。
「はーい!」
張りのある若い女性の声。ヒノコの声とは違う艶っぽい声。
その声と共に部屋の扉が開く。
現れたのは巻き髪の女性の神。すこし大きめの唇がセクシーである。
「どうかしたのかしら?」
女性は首をかしげる。動作に合わせて髪が揺れる。すこし髪がしっとり濡れている。温泉に入ってきたばかりのようだ。
「実は旅館でウェルカムドリンクを始めようと思いまして、ぜひ味見してもらえないかと思ってきました」
アスカが本日何度目かのお盆の上を見せた。
「まぁ素敵! どうぞ」
女性は嬉しそうに扉を開けた。
「ごめんなさいね、今温泉に入ってきたばかりで髪が濡れているのだけど」
そう言って女性はタオルで髪を優しく抑えるように水分を取っていく。
浴衣をしっかりと身に着け、帯をきちんと巻いているのでヒノコとは性格はかなりことなっているだろう。しかし帯をしっかりと身に着けているからこそ現れる女性特有の体の線が出ている。
その姿に女性を感じて、少し慧はどきどきした。
「温泉はいかがでしたか?」
「最高でしたよ!」
女性は両手で頬を包み込む。
「お湯がしっとりしていて、よく温まるし、肌がもちもちになって気がします!」
肌がつやつやになると幸せな気分になるのは人間も神様も変わらないようだ。
特にこの神の仕草や表情は女性特有の柔らかさや可愛らしさが合って慧は緊張がほぐれていくのを感じる。
「お客様は何の神様ですか?」
「私は静電気の神です」
静電気の神はウフフと笑った。
「なんとお呼びすればいいでしょう?」
「お友達からは『ピリちゃん』と呼ばれます」
「じゃあピリちゃんと呼んでも良いですか? 私はアスカって呼んでくださーい!」
(まぁなんとも距離を縮めるのが上手いもんだ)
あんまり客と近づきすぎるのもいかがなものかとも慧は思うが、それで客が良い時間を過ごせるのならそれが一番いいのかと再度思う。
通常の旅館では味わえない日常が黄昏館の魅力だ、それはこのアスカ自身も貢献しているということだろう。
慧も何か貢献できればいいなと思っている。今はまだなにもなさそうではあるが。
「もちろん、嬉しいです!」
ピリはアスカに握手を求める。
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