火の粉の神



 中から女性が顔だけ覗き込むようにして姿を現した。

 

「どうかしましたー?」



 女性の神、若いスレンダーな神だった。



「今度紅茶をサービスで始めたいので、味見していただけませんか?」



「お茶大好きー!」



 女性の神は満面の笑顔で二人を招き入れる。



 慧は女性の姿を見て驚いた。



 彼女は旅館の浴衣に着替えていたのだが、はだけていた。



(意識しないと目線がいってしまう)



 慧はグッと目線を上に上げた。






「アマテラスさんから聞いたのですが、何の神様なんでしょうか?」



「あたしは火の粉の神だよ。『ヒノコ』って呼んで!」



 ヒノコはウィンクした。



(どこかアスカさんの雰囲気を感じる)



 キャピキャピ系だ、本能的に慧はそう確信した。



「この景色サイコーだよね!」



 ピョンと飛んで立ち上がり、窓の方へ小走りで移動していくヒノコ。



 大きく動くので浴衣がはだけている。上半身は胸元近くまで、下半身は足の付け根近くまでちらちらと見えかけている。



 神の力なのか絶妙に見えないが、慧は目のやり場に困っていた。



 アスカと目を合わせて少し笑いあってしまった。



(あれ大きいサイズ着てるよね? 全然体のサイズに合ってないもん)



 これはもはやセクハラだと山に向かって叫びたい慧である。



 しかし、不思議と下品ではない。なぜか品の良さすら醸し出している。




 綺麗な体、芸術作品を見ているようだとアスカは感じていた。



(神様ってずるい)




 恐らく背格好からしてもアスカとスタイルは変わらない。しかし自分がこの格好をしてもこの魅力はでないだろうとアスカは思った。




 見られる目を気にせず、むしろ世間からの視線に気がついていないからかもしれない。



(そんなことは今はいいの!)



 アスカは首をぶんぶんと横に振る。本題に行くことにした。



「他の神様と会うのは初めてですか?」



 今回も得られることは無いだろうと諦め半分で訊いてみた。



「そうだけど、聞いたことある神はいるよ」



 今までとは違う新たな情報を得られるチャンスが来た。



 二人は身を乗りだす。



「それはどなたについてですか⁉」



「えっとね、砂粒の神だったかな。あの人はうわさを聞いたことがある」



「どんな噂か聞いてもいいですか?」



「うん……、まぁここだけの話ね……」



 ヒノコが少し言いづらそうにする。何か訳があるのだろうか。



「その人、なんかよくわからない人と関係を持っているらしいんだよね」



「よくわからない人……?」



「すこしガラの悪そうな? 人達と集まってるんだって」



 ヒノコはそこで紅茶を飲んだ。



「ちなみに砂粒の神は男のひげを生やしている見た目の神ね」



 慧は神々の姿を思い出す。



 確かに一人、いかつい雰囲気の神がいたことを思い出す。



 ここにきて初めて有益な情報を得られた。



 もしもそれが悪いモノと関係があるとしたら、その彼が犯人候補上位になることは間違いない。



 もう少し彼の情報を得たかったが、ヒノコ自身はそれ以上は知らないらしい。



 ここに来るまでにも彼とは会話はしていないという。寡黙な雰囲気だそうだ。



 この噂は本当なのだろうか。

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