そよ風の神



「すみません長時間お邪魔をしてしまいました。失礼します」



「いえ、こちらもお茶をごちそうになってしまって」



「また何かありましたらお申し付けください」



 二人はツクヨミの部屋を出た。



「フゥ…」



 二人同時に息を吐いた。



「…何も得られませんでしたね」



「そーねー。神話の話は面白かったけど、特に何もないわよねぇ」



 アスカは口に指をあてて考える。



「よし! 他の客さんの所にも行ってみよう!」






 他の神の客室は一階下にある。二人は二階に降りてきた。



「おや?」



 長い廊下の先、そこに窓の外を眺める者がいる。



「こんにちは!」



 アスカが声をかける。



「…こんにちは」



 それは神の一人だった。一番幼い子供の神。



 見た目は少女だが、宙に浮いて窓の外を見ているのが神らしい。



 今慧とアスカを見ている彼女は不思議そうに二人のことをその大きな目で見つめている。



「何か見えます~?」



 アスカが同じように窓の外を眺める。



 山の風景が良く見えた。



「こっちの風景が素敵なの!」



 少女の神は嬉しそうに答える。



「ちょっと聞きたいんだけど、あなたは何の神様なの?」



 アスカは彼女と同じ目線になるために少しかかんだ。



 彼女がどんな神様なのか、それは慧も気になっているところである。



「私はそよ風の神だよ!」



 笑顔でそよ風の神はそう言った。



「そよ風か、お名前はあるの? なんて呼べばいい?」



 アスカはいつも通りに距離を詰めていく。



 見た目は子供といえども立派な神様、それを相手によくぐいぐい行けるなと慧は感心する。



「『そよ』でいいよ! こっちのお人形は『ふうこちゃん』!」



 そよは元気に人形を二人の前に出して見せた。



「よろしくね、そよちゃんとふうこちゃん!」



 そよはその方角からの景色が好きだと言った。部屋の窓から見える景色とはあまり違いはないはず。



 山から吹く風が好きだということなのだろうか。確かにこの季節、こちら側からの山風が心地よく吹く。



 流石、そよ風の神といったところだろうか。



「そうだ、そよちゃん。私達美味しいお茶を持ってきたんだけど、飲んでみてくれないかな?」



「いいよ!」



 彼女は自分の部屋を開け、アスカと慧と招き入れた。彼女の小さい体では客室がとても広いだろう。パタパタと走り回る姿は子供らしく、愛らしい。



「今淹れるね!」



 アスカは手際よくお湯をポットに入れて茶葉を蒸らしてカップに紅茶を注ぐ。



 そよはその様子を興味深そうに眺めていた。

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