ツクヨミの話 その2



 今回も何か有益な情報をこれ以上得られることは無いと思ったのか、アスカは世間話をし始めた。



「ツクヨミさんはあまり神話に出てこないですよね。正直お会いできるとは思っていませんでした! 感激です!」



「あぁ、ありがとうございます。自分は確かに神話に登場することはほとんどないですね」



「ご家族の方は皆有名じゃないですか? アマテラスさんとか、スサノオさんとか。ご自身があまり登場しないのは、何か理由はあるんでしょうか?」



「それは…」



 ツクヨミはそこで一度止まった。



 何か言いにくい事情があるのだろうか、慧は不安になる。




 対人関係において、踏み込みすぎるのは危険だ。タイミングを見て距離を縮めていかなければ本音を引き出すことはできない。




 慧はツクヨミの引っ込み思案だという性格に少し警戒をしていた。慧自身もそうだが、いきなり距離を詰めてくる相手には一気に心を閉ざしてしまうかもしれないからだ。








「自分が物語を伝える役をしているからです」



「!」



「ツクヨミさんが神話を書いたってことですか?」




 アスカの問いにツクヨミは頷く。





「自分がこの目で見たことを趣味程度に文章で書き留めていたんです。だから自分はあまり出ていません。まぁ人間の皆さんがこの書き留めていたものを読んで、今までそちらの世界で伝え続けてきたのかは分かりませんが…」




 長らく謎だったことに一つ答えが出た。ツクヨミ自身がストリーテラーの役をしていたわけである。



「ではご両親のお話は?」



 アマテラスとツクヨミの両親はイザナギとイザナミという二人の男女の神である。



(イザナミとイザナギ…、どちらが父親でどちらが母親だったんだっけ? 名前が似てて分からなくなるわ)





「両親の話は私が生まれる前のことは他の者から聞いた話を基に作ったものです。そのあたりは割と忠実なほうですよ。書き始めは割と真面目に、途中から面白くなっていろいろ足したりしたので」




「先ほどお姉さまからもお話を聞いたんですが、アマテラスさんとスサノオさんとの仲は人が思っているよりも良好だそうですね」



「えぇ、私は史実に忠実に書いたわけではないので…、面白くなるように結構脚色したものもあります。あくまで趣味のためだったので…」



 ツクヨミは困ったように笑った。まさか自分の作った話が残り続けているとは夢にも思っていなかっただろう。



「その件で皆から何か言われたことは無いですか?」



「まぁ…ないことは無いです。『俺はこんなひょろっとした感じじゃない』とか「私はもっと魅力的よ」とか」



 どの世界でもみんな自分が描かれるとそう思ってしまうものである。それは神の世界でも変わらないようだ。



(しかし、よく話してくれるな。引っ込み思案な性格だとは聞いてたけど、意外とおしゃべりは好きなのかな)



 慧はほっと胸をなでおろしていた。

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