ケイコのお茶の誘い



「何か手を考えないと行けないか」

 アスカは腕を組んだ。



「なるべく自然に部屋に行ける方法かぁ」



 眉間にしわを寄せて考えるもなかなか思いつかない。



 この旅館では宿泊客から要望があれば、さまざまに関りを持つが、あくまで客の要望次第である。要望もなく客の部屋を訪れて世話を焼くことはあまりしない。



 過去に前例がないため、一から知恵を出さねばならない。



「無いね~、思いつかない」



 その時、

 ゆらりとケイコが風と共に現れた。



「あぁ、ケイコちゃん!」



「アスカちゃんお疲れ様」



 ケイコはアスカに微笑みながら手を振った。



「あら慧君久しぶり。来てくれたんだね」



「はい、ケイコさんお久しぶりです」



 微笑む彼女。



「ケイコちゃんどうしたの? こんなところで」



「女将さんに二人がアマテラスさんのお部屋に行ったって聞いてね、来ちゃった」

 ウフフとお茶目にケイコは笑う。



 アスカは今あったことを手短に話した。



 そして特に手がかりは得ていないこと、他の客室へ行く口実が思いつかず困っていることを話した。



「二人とも少し休んだら、お茶淹れるよ?」



「今緑茶飲んできたばかりなの。しかもアマテラスさんに淹れてもらっちゃってさ!」



「次は私が紅茶を淹れるから、二人に味見してほしいの」



 ケイコは二人にお願いした。



「…そういうことなら休みがてらいただきましょうか」



 慧はお茶でタポタポするお腹をさすりながら言った。



「お言葉に甘えようか」



 二人はケイコと共に休憩室へ戻った。



「今淹れるからね、待っててね」



 ケイコは少し鼻歌を歌いながら手を動かしている。



 ポットもおしゃれな花柄のものを使っているが、彼女の趣味だろうか。



 待っている間慧とアスカは今回のことについて話していた。



「確かアスカさん言ってましたよね? 『悪意のある者はここには来られない』って。どうしてここに来れたんでしょうか」




「それは恐らく、相手が悪いと思ってないってことかな。もしくは私たちの世界から来る者に対しては、そういう力が働くけど、他の世界から来る者には力が働きづらい、とかかな」



 それは一体どういうことなのだろうか。



「でも詳しいことはわからないな。私があの時した話も絶対じゃないし」



 二人はじっと考え込む。



「二人ともそんなに難しい顔しないで。これどうぞ」



 ティーカップも花柄の可愛いデザイン。



 優しい香りと共に湯気が上っている。



「いただきます」



 二人同時にお茶を飲む。



「あ、美味しい!」



「緑茶と違って甘みがあるね! 香りもいいね!」



「フルーツティーなんだけど、少しハーブを入れてあるの」



「どうして紅茶を作ろうと思ったの?」



「この間慧君の部屋で紅茶をごちそうになって、旅館でも出せないか相談してみたの。そしたら津軽さんがお茶にできる茶葉を取り寄せてくれて、カゲロウさんにやり方を聞いて作ってみたの」



 津軽がカゲロウが紅茶づくりにも精通しているとは、慧は知らなかった。



「ほんと、この旅館って誰が欠けても回らないようにできてるというか、チームワークができてるよね!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る