アマテラスの部屋



「ここがアマテラスさんが止まっている部屋だね」



 アマテラスの部屋は三階にある。



「じゃあいいね、ノックするよ?」



 慧はコクリトと頷く。



「トントントン」



 アスカが部屋のドアをノックする。



 慧の体に緊張が走る。



「どちらさまかしら?」



 中から上品な声がする。



「旅館で働いている者です!」



 アスカが元気よく答える。



「はい、今開けます」



 中から声がした後、ガチャリと金属音がなった。



 扉が開く。



「あら、お二人でいらしたのね」



 女性、アマテラスは優しく微笑んだ。



(本当に太陽みたいだ)



 慧はその笑顔に見入ってしまう。



「私、榊アスカと申します。こちらが石岡慧です」



 アスカが二人のことを紹介した。



「ご丁寧にありがとうございます。アマテラスです。今日からしばらくお世話になります」



 そう言って彼女は丁寧にお辞儀した。



 アスカもお辞儀する。



「こ、こちらこそよろしくお願いします…」



 慧は慌ててお辞儀する。



「どうなさったの? 二人でいらっしゃるなんて」



 アマテラスは不思議そうに首をかしげる。



「例の件でお話を伺いにまいりました」



「例の件…?」



 アマテラスはさらに首を傾けた。



「あの、手紙の件です」



 アスカが小声でアマテラスに伝えると、理解したように目を見開いた。



「あぁ! そうでしたわね」



 アマテラスは何度か頷いた。



 忘れていたのだろうか。



(この人、もしかして天然かな?)



 慧は密かにアマテラスに対してそう思った。



 なかなか忘れられない経験ではありそうだが。




「さぁお入りください。中でゆっくりお話ししましょう!」



 アマテラスは扉を全開にし、アスカと慧を招き入れた。



「失礼します」



 慧はアスカの後に続いて中に入る。



 旅館の部屋といえども、女性の居る部屋に足を踏み入れるのは緊張するものだ。慧はドキドキしていた。



 部屋は到着したばかりということもあり、あまり乱れてはいなかった。



 ただしテーブルには彼女が身に着けていたアクセサリー類が置かれていた。



 どれもやはり煌びやかだ。



「すみません、到着したばかりでお休みしたかったでしょうに」



「いいのよ、この問題のほうが大切だから。さぁ座ってくださいな」



 彼女に促されて二人は座椅子に腰を下ろした。



「お茶を淹れるわね」



「あ! 私がやりますよ!」



 アスカが立ち上がろうとするのをアマテラスが制した。



「いいの、私にやらせて頂戴。好きなの」



 そう言いながらアマテラスはお茶の準備をしていく。



 丁寧に、品のよい所作でお茶を淹れていく。



「はい、できました。粗茶ですが、どうぞ」



 アマテラスがアスカと慧の前にお茶を出す。



「お客様にお茶を淹れていただくなんて初めてです! いただきます!」



 アスカは嬉しそうにお茶をすすった。



「わぉ、美味しい!」



「ここのお茶の葉がいいものなんですよ」



 アマテラスは微笑む。



「い、いただきます」



 慧もお茶をすする。



「あ、美味い」



 確かにお茶は美味しかった。慧が家で淹れるお茶とは味が違う。



 茶葉を蒸らす時間、お湯の温度、全てが上手い。



(これが神が持つ力。神業か、お茶でそんなことを言われるのは神様的にはイヤかな)



 少し大げさだろうかと慧は心で笑う。



「ふぅ」



 アスカは一息つくと、



「他の神様について教えていただけますか?」



 アスカは本題へ切り込んだ。

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