探偵役
何者かがなりすましで忍び込むという黄昏館にとっては前代未聞の事件。
「ある意味人里離れた旅館で、成りすましの予告状。まさにミステリーの定番だな」
世間と隔絶された土地で起こるミステリー。
(クローズドサークルって言うんだっけ? なかなかない環境のクローズドサークルだが)
しかし、犯人の目的は何なのだろうか。
成りすましだけで終わったのだろうか。
狙いはこの旅館に来ることなのか、その神になりきることなのか、アマテラスを不安にさせることなのだろうか。
(そういえば…アマテラスといえば…)
慧はある物語を思い出す。
(アマテラスって神話では一度隠れたって聞いたことがある。それで世界が真っ暗になったって。神々が頑張ってアマテラスを引っ張り出したんだっけ?)
世界を闇に覆う、犯人はもう一度それを起こそうとしているのだろうか。
ここで何が起こっていくのだろうか。
しかしここまで来て、急に慧は冷静になる。
旅館で起こるミステリーが殺人なら、自分は助からない立ち位置だろうなと慧は思った。
(ここで死ぬのは、ちょっとやだな‥‥)
さすがにそんな凶悪事件は起こらないだろうが、相手が神ならどんなことでも驚異的なことだろうと、怖くなる。
念のため、少しでも生き残るための確立を上げるためには、探偵役になることが必要か。
探偵は推理小説内では主役級の人物、それがいてこそ成り立つものでもある。
つまりそうなれば、少なくとも物語の最後まで生き残ることは可能だ。
(あくまで、小説の中での話だけどね)
現実世界での探偵は事件を解き明かすことなどあまりない。
なんなら現実世界で起こる殺人事件ならば、探偵が殺される可能性は高そうだ。
それでも慧自身、自分には害はないと思っているのは、相手が神だからだろうか。神がただの人間に興味を示すことはないだろうと漠然とした自信を持っていたからかもしれない。
「犯人探しがアマテラスさんの目的の一つなんですもんね」
こんなことをしても意味なんてないと思うが、どんな形であれ客の求めることに協力するのは悪いことではないだろうと思った。
「そういうこと! 期待してるよ、名探偵!」
アスカはウインクした。
「ハハハ…」
思いがけず探偵役に抜擢された。
軽い笑いしか出ない。
(俺、近いうちに死ぬかも…)
しかし慧は思う。
今自分は「死ぬかも」、「死ぬのはイヤだ」と思っている。
おかしいのだ、そんなことはおかしいのだ。
やはり今までにはなかった何かが慧には生まれているのだ。
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