これが黄昏館



「そうそう、慧君」

 アスカはポケットに手を突っ込む。


「アマテラスさんの元に手紙が届いたんだって」

 アスカが手紙を広げた。


―誰かになりすましをさせていただきます。―


 手紙には中心に一文だけ、そう記されていた。書いたものはもちろん不明、よくわからないモノだった。




「何です? コレ」




 アスカは肩をすくめる。

「あの中に偽物が紛れ込んでるんだって。だからそれをこの旅館で見つけ出したいんだってさ」




「本当なんですか? 誰かのいたずらなんじゃ…?」



「あんまり信じられないはなしだけどね、アマテラスさんは本気だと思っているみたい」



「あの中に偽物がいる…と」



 慧は来た神の顔を思い浮かべる。



 皆どれも個性あふれる神たちであった。



(まぁ、化けやすさはありそうな神様たちだけど)




「要はアマテラスさんに向けての挑戦状みたいなもんでしょうか? 狙いは何なんでしょう?」



「それはよくわからないけど、アマテラスさんはこの旅館で見つけ出したいんだってさ」



「どうして?」



「今度私たちの世界に行くみたいなんだけど、向こうの世界に変なものを連れ込みたくないんだって。悪さをされたら困るからって」




「ここで悪さをする可能性も?」



「あるかもしれないね~」



「困ったな」



 そうだとすると、非常にここでの一週間は大切なものになる。



 ここが最後の砦ということだ。



「ここにいるまでに見つからなかったらどうするんでしょう?」



 アスカは首を横に振る。

「それはわからない、どうするんだろうね」




 するとここで慧はなぜ自分がここに呼ばれたのか、気になった。



「でも、俺が今日呼ばれた理由って?」




「ケイコちゃんが慧君の部屋に行ったときに推理小説があったのを思い出してね。それで慧君に声をかけてみようって。何かできるかもって」





 慧は空を仰ぐ。




 確かに推理小説を読むのも好きだが、読むだけだ。そんな訳の分からない状況で自分は何をすればいいのだろうか。




「俺にはどうすることもできませんって…」




「ま、慧君に解決を任せるなんてことはしないから! できることをやってみよ」

 アスカがニコリと笑う。





 どんなときでも彼女はこの表情をする。




 楽しい時も、大変な時も。




 多分彼女は今のこの状況を大変だが、楽しそうだとワクワクしているのだ。




 慧はこの女性こそ一番の魔物だと感じる。





 世間とは隔離された旅館での犯人捜し、まさにミステリー。




 今回の相手は神と来た。





「あー、この感じ久しぶりだな」





 思い出した。




 そうだ、これが黄昏館だ。




 不可思議なことが起こる旅館だ。




 久々の黄昏館の洗礼を体いっぱいに受ける。




「それなら頑張ってみますか」




 アスカは満足そうに歯を見せて笑った。

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