手紙
「そうだよ、あの日本の神様だよ」
アスカは何も気にする様子もなく答えた。
「アマテラス…? 日本の神…?」
アマテラスとは日本の神、それがここに泊まりに来たというのだろうか。
「びっくりだよね! うちの旅館も有名になったもんヨ!」
アスカは少し興奮気味に話す。
「そんなのんきなこと言っている場合ですか⁉ 神様ですよ?」
そう慧が言うと、アスカは不思議そうな顔をした。
「あれ? 言ってなかったっけ? 神様来るって」
「言ってないですよ!」
「ソッカー、ワスレテタナー」
「棒読みですよ。絶対わざとでしょう⁉」
「まぁ言おうと思ったんだけどねぇ」
「絶対言わなきゃですよ、そんな大事なこと! 言ってくれてたら…」
「言ってたら、来なかった?」
またアスカはあの顔をする。
慧の心をすでに覗いているぞと言わんばかりのあの顔。
「いや、来てましたけど…」
アスカはニヤっと笑った。
「まぁ、サプライズ成功だね」
「…とにかく、ちゃんと教えてくださいよ」
アスカは今回の宿泊客について説明を始めた。
聞くところによると、旅館に来たのはアマテラス、その弟のツクヨミ、そのほかの五柱の神々であった。
「じゃあホントに神様なんだ」
そこまで聞いてやっと慧の中で何かがストンと落ちた。
「そうだよ~、信じた?」
「もちろん、信じられますよ」
こういったことに出会うのは何度目かだ、今さら信じられない理由のほうが少ないのだ。
「何でもありな旅館だな」
アスカは大きく笑った。
「あの神様はいつまで止まる予定なんですか?」
「一週間だって」
彼らは一週間、この旅館に滞在して人間の住む世界に行くという。
「ここまで長かったらしいからね、療養して元気いっぱいにしていくんだって」
「神様も忙しいと疲れるんですね」
なんとも人間らしいものだと慧は思った。
もっともこの旅館にいると、どんな見た目の者でも中身はほとんど変わらないと学んだ。
「『お客様は神様だ』、なんて言葉を誰かが言ってたけど、『神様がお客様』とはね」
「そういうこと! まぁ私たちは神様だろうが何だろうがいつも通りにお仕事をして満足してもらうだけヨ!」
神様だから特別扱いはしない、それは誰もが大切だから、どんな客にもうちのやりかたで最高を努力する、それがこの黄昏館の目指している姿であると慧は思っている。それを体現する皆が本当に頼もしい。
「そうそう、慧君」
アスカはポケットに手を突っ込む。
「アマテラスさんの元に手紙が届いたんだって」
アスカが手紙を広げた。
―誰かになりすましをさせていただきます。―
手紙には中心に一文だけ、そう記されていた。書いたものはもちろん不明、よくわからないモノだった。
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