現れた宿泊客



 午前中は次に来る宿泊客のための準備をしていく。



 仕事を覚えているか不安な慧であったが、体がなんとか内容を覚えていたので問題は起こらなかった。



 しかし、

「布団重っ! こんなに運ぶの大変だったっけ?」



 布団運びに体力を持っていかれる。



 おまけに着物というのも動きにくくて疲れる。



 久々に体を動かすのですぐに息が上がってしまう。



「頑張ってぇ!」



 ヒイヒイと布団を慧に対して、同じく布団を運ぶアスカはヒョイヒョイと身軽に動いている。



 布団を干している間に部屋をきれいにしていく。



 アスカが部屋の花瓶に花を用意していく。



 黄昏館は部屋にそれぞれ花瓶を置いてあり、客を迎えるときは花を入れておく。



 この花瓶は女将の手作りで、全て形デザインが異なっている。



 すべて終えたら迎え入れる準備が完了である。



 迎えるためには時間との勝負であることもあるので大変である。



 準備が終わった後、慧は汗だくになっていた。



 この間までこれを毎日やっていたとは思えなかった。



「何か夏よりも汗かいてる気がする」



「お疲れ様、これ汗拭きシート、使って」



 アスカがカバンから汗を拭くようのアイテムを手渡す。



「ありがとうございます」



「顔にも使えるよ」



 慧は一枚シートを取り出し顔から汗を拭きとっていく。



「あ、いい香り」



 シートは香り付きでさわやかである。



「そうでしょ! アタシのお気に入り」

 アスカもシートを使う。



 拭き方はやはり女子。拭き方が慧とは違って上品、そしてどこか色気がある。首筋のあたりを拭いているからだろうか。



(あ、そういえばアスカさんってお嬢様だったな)





 午後になるとチェックインのために旅館に現れた団体客が一つ。



 彼らが本日の宿泊客である。



 女性を先頭とした何人かの団体客である。



 彼らは皆和装で現れた。



 そしてそれぞれにアクセサリーをつけている。



 彼らの姿はどこか世間離れをしているかのような感覚に慧は陥る。



(この旅館で世間離れしてるってのも変な話だけど)



 しかし煌びやかでありながら派手ではない。



 着ている物に負けないモノを彼ら自身が持っているように感じられる。



 まさにこれを品があるというのだろうか。



 慧は順番に彼らを見る。



 一番先頭の女性は、上品という言葉がぴったりな女性である。優しそうな柔らかい表情、微笑みを崩さない



 慧にはあの雰囲気は見覚えがあった。



(天皇っぽいな)



 やはり似ている雰囲気の者は皇族。彼女もそれに近い存在なのだろうか。



 その後ろには男性。先頭の女性とどこか似た雰囲気がある。物静かで知的な印象を受けるが、肌は青白く、あまり健康的な雰囲気には見えない。



(ちょっと人見知りな感じ?)



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