後期一発目の授業



 夏休みが明けた。



 今日からまた大学が始まる。



「うわー、久しぶりー!」



「久しぶりー! 焼けたね~」



「海でバイトしてたら真っ黒になっちゃった!」



 久々にキャンパスで会う学生たちはどこかテンションが高い。



 時刻は一時間目が始まる前の朝。

 


 キャンパスにいる学生の数はまだ少ない。



 ここにいるほとんどの大学生は朝が遅い。



 必修の授業でもない限り、一時間目から登校している学生は少ない。



 慧は必修の授業は午後からだが、朝から登校をした。特に誰か知っている人と会うこともなかった。






 目当ての教室に入る、学生の数はまちまちだ。



 慧は文学の授業を受けようと思っていた。



 気楽な気持ちで教室に入った。



(一回受けてみていなんか違ったら履修しなければいいんだし)



 あの日のバイトの面接と同じように。



 それにここは文学部の学生が多いだろう。



 全く顔を知らない学生しかいない。



 大学の教室はすべて黒板、ホワイトボードに近い所に出入口が設計されている。



 後ろに座るためには、入り口を入って、一番遠い席まで歩くことになる。



 しかし学生たちは後ろに集まっていく。



 この教室でも同じ状態だった。



 慧も席を取ろうとする。



 いつものように後ろの席をめがけて歩き出す。



(いや…)

 ここで慧は立ち止まる。



「見方を変えれば物事は変わることもある、か」



 慧は教室で一番前の席に座った。



 周りに学生はほとんどいない。



 両側に学生がいないから、隣の椅子に自分のバッグを置ける。



 机も広々と使えて快適である。



 大きな黒板が目の前に。



 見やすくはあるが、どこか圧倒される。



 チャイムが鳴る。



 後期一発目の授業のチャイムだ。



「はい、今日からまた授業が始まりますけども、今日は履修するか決めてもらうため

に授業の概要を説明していきます」



 先生がプリントを配る。



 プリントには概要が記載されている。



 配り終えると、先生は授業を始めた。



 夏休み明け最初の講義、学生の雰囲気はいつもより緩かった。



 少しだらけて勉強に身が入らないのは毎年のことなのだろう、先生は特に気にせず進めている。



 もしくは先生自身も夏を名残惜しく感じているのだろうか。



 始まって少しして、慧には気になることがあった。



 先生がどこか自分に向けて話しているように感じる。



 学生はほとんど奥の遠い席に座っているからかだろうか。



 慧はよく聞いていると思われたのだろうか。



 先生といえども人間、話を聞いてくれている人の方を無意識に見てしまうものなのかもしれない。



(そらすのも変だよな)



 だからよく見て、聞かざるを得ない。



「?」



 不思議な感覚があった。



 なぜか話がよく入ってくる気がする。



 前期では経験することが無かった感覚。



 そしてその感覚は、

(意外と面白いかも)

 と慧に思わせた。



 授業終わりのチャイムが鳴る。



 学生たちがせかせかと教室を去っていく。



「この授業、受けてみようかな」



 慧は履修届を提出した。



 履修届のほかに、パソコンから登録も必要なのだが、それは後回しにした。



 授業間の休憩は十分、その間に他の場所に移動しなければならない。



 慧の目的の授業は別の校舎だった。



 急がなければならない。



 次の授業も試しに一番前の席に座ることにした。



 生徒の数は多くなっているが、前の方の席は相変わらずガラガラである。



 今回も快適だ。



(なんか、一人で受けたい自分にはこっちの席の方が合ってるかも)



 一人で受けると、聞き逃した際に知人から確認することができないのが辛いが、しっかりと聴こうと集中するのでそれはそれで良い。



 慧の今期の授業スケジュールが完成した。



 この間のスケジュールよりも受ける授業の数も多く忙しいが、興味のある授業が多い。



 前期よりも楽しく大学に通えそうだ。


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