名探偵な彼女?
「車の中ではどんな会話したの?」
「私が外で見たものを訊いてたりしたことが多かったかな」
ケイコは車で移動中、目に入る様々なものに興味をもっていた。
おかげで会話と会話の沈黙に困ることは無く、慧も楽しかった。
「そのあとは映画館に連れて行ってくれたんだよ」
「映画館⁉ あの隣町の?」
流石慧と同じ地域に住んでいるアスカ。すぐに土地の見当をつける。
「そうです」
「あのビーチからだと…結構、遠いよね」
少々困惑する彼女。
「なんで映画に行くってなったの? ケイコちゃんが行きたかったとか?」
「いえ、全然、次どこ行こうかってなって、映画館に行きました」
「んん?」
アスカが不思議そうな顔をして慧の顔を見据える。
「なんです?」
「いや、なんか、妙だなぁと思って…」
「どうして、ですか?」
じとっと背中に汗をかく慧。
「海に行って、あの映画館に行こうってなるかなぁって思って」
片眉を上げて考え込むアスカ。
「そうですか?」
「うん、なんか土地勘ない人がやりそうなコースだなと思って」
ギクリ。
バレている。
慧は内心焦る。
流石にレナに相談したというのは言わないでおきたかった。いろいろツッコまれそうなので…。
「ふむ、まぁいっか。映画は何を見たの?」
「海外の映画だったね」
慧は映画の説明をアスカにした。
「シリーズだよね、慧君好きなの?」
「いや…、俺も初めて見ました…」
そう言うとアスカは吹き出した。
「なんでそれにしたのよ?」
人があまりいなそうなものを選んだとは言えなかった。
「なんとなくッス」
「本当にぃ? 怪しいな!」
アスカはやはり勘が鋭い。
水面下で行われる静かな推理。アスカは名探偵だ。
(追いつめられる犯人はこんな気持ちなんだろうか…)
このままだと遅かれ早かれアスカにばれてしまう。
だから慧は話を逸らすことにした。わざとらしいが、それでも良い。
「飲み物とポップコーン代はケイコさんが出してくれたんです。ごちそうさまでした」
「いいの。私の方がごちそうしてもらったんだから」
お互いに気を遣いあう。
「あ、あとね…」
ケイコが何かを思い出したように呟く。
「慧君が私の分のチケットも取ってくれたの」
ケイコはチケットを取り出した。
「良かったね!」
「幽霊扱いしないでくれて本当に嬉しかったんだ」
ケイコは満面の笑みを見せた。パッと花が咲いたような可憐な笑顔。
「良〜い笑顔!」
慧は考える。自分は、自分のためにこのコースを選択した。
ケイコはああ言ったが、彼女を幽霊扱いしていたのには違いない。
彼女の笑顔が印象的だっただけに、慧は深く後悔した。
もしも、もし今後またチャンスがあるならば、そんなことは絶対しないように決意した。
「また慧君にどこか連れて行ってもらおうと思って」
慧の心を読んだかのようにケイコがそんなことを口にした。
「おや、優しいねぇ」
「はい、ぜひまた遊びに来てください」
そう慧が言うと、ケイコは再びいっぱいに笑った。
「あんまり仲良くしすぎると、彼女に嫉妬されちゃうゾ?」
「彼女じゃないですよ」
「私も慧君の家に遊びに行ってもいい?」
「…考えときますね」
差別するつもりはないが、生身の女性を部屋に招くのはとても抵抗があった。
この言い方だと、アスカの方を差別していることになってしまうだろうか。
(アスカさんはいろいろな意味で大物だからな、仕方あるまい)
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