部屋のレナ



 レナは今、自室のベッドの上に座っていた。



 彼から電話が来て以降、あらゆることが手につかない。



 勉強も、会話も、お風呂も、スキンケアも、食事も、全て手につかない。



 すべてに上の空だった。




 何度も携帯の画面をのぞき込んでしまう。



 何も連絡はない。



 当たり前だ、彼は今他の女性といるのだ。



 こんな自分に連絡をしてくるなど、優先順位としては相当低いだろう。



 連絡することも頭にないかもしれない。



 それに自分と連絡をしていれば、相手の女性の機嫌を損ねるかもしれない。




 自分の周りで誰かがトラブルになるのは嫌だ。



 慧が傷つくのはもっと嫌だ。







 それに彼とこまめに連絡を取り合っているわけではない。




 数週間連絡をしていないなど、大学に入ってからは普通だった。




 しかし今、たった数時間のことなのに、気持ちを抑えるのが難しい。




 そわそわとした気持ちが内側からあふれ出てきて止まらない。




 彼の頭が相手の女性でいっぱいになってしまい、自分が塗りつぶされてしまったら…、などと訳の分からないことを考えてしまう。




 このままだとどうかしてしまいそうだった。




 メッセージ画面で『慧ちゃん』を選択して、メッセージを打ち込んでいく。




 しかし、

「これじゃあ、きつい女だと思われるかな…、これだとねちねちしてるって思われるかも…」



 メッセージを打つのに時間がかかる。



 どんな文にすれば、より自然に、幼馴染らしく、自分らしく、気持ちを悟られないだろうかと考える。



『どうだった? 連絡するのは早すぎたかな?』



 慧へメッセージを送ろうとしては消して、打ちなおしてを何度も繰り返した。



 二人の時間を邪魔してはいけないと思いながらも、メッセージを入れる自分を止められなかった。



 指で送信マークを押した。



「・・・送信しちゃった…!」





 だから彼から電話がかかってきたときは心底驚いた。



 そして慧からの電話に出るかためらった。



 レナは、慧とその女性が今も一緒にいると思っていた。



 もしかしたら二人はお互いを求めあっているかもしれないと思うと、元気な声で話せないとも思った。



 応援できるだろうか…。



「何考えてるんだろう、私」



 自分と慧はただの幼馴染、別に特別なものではない。



 しかし彼が自分から離れて行ってしまう気がする、苦しい。



 何度も何度も頭の中で自分に言い聞かせる。



「出ても大丈夫、大丈夫……」



 彼がどんな人と付き合おうが関係ない。



 それでも頭はぐるぐるとあることないこと考えてしまう。



(付き合ってると決まったわけじゃないもんね…、私って最悪)



 都合のいいことで正当化して、レナは「応答」をして、電話を耳に当てた、というわけである。




「もしもし、レナ⁉」



 自分が声を出す前に彼の方から言葉が来た。



「慧ちゃん? 今大丈夫なの?」



 想像以上に緊張している。



 言葉が上手く出てこなかった。



「何が?」



 彼は不思議そうに聞いてくる。



 二人はいっしょにいるのだろうか、それともわざわざ一人になって電話をしてきてくれたのだろうか。



 嬉しい反面、申し訳ないと罪悪感でいっぱいになる。



「ごめん…お取込み中だったらと思って……」



 訊いてはいけない繊細なことを訊いてしまった。



 こうなるといやでも二人について耳にしてしまう。



 心臓はドキドキしっぱなしであった。



(なんで今日はこんなにドキドキするの…!)


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