長い一日の終わり



「お取込み中って…、そういうのじゃないって」



「もうお家にいるの?」



「もう家に帰ってきたよ」



「じゃあもう別れたんだ」



「うん、ついさっきね」





 しばしの沈黙。





 自分から話を切り出すべきだろうと思った。



 慧は自分から話し出す。



「今日は、ごめん」



「なんで謝るのよ。私たちはただの幼馴染なんだから」



「いや、それでも…」



 謝らなければならない。



 なぜかそう思った。



 そしてできる限り誤解を正さなければならない。



「デートとかじゃないんだよ……‼」



 必死に伝えた。



 汗もかいていた。



 拳を固く握りしめていた。



 すると、電話の向こうで笑い声が聞こえた。



「アハハ、そんなこの世の終わりみたいな声を出さなくても」



 慧は今日あったことを話した。



 もちろん、ケイコのことは話さなかった。




 レナは慧が話し終わるまで、遮ることを言うことは無かった。



 レナはまず、笑った。



「でも意外。慧ちゃんが誰かのためにそこまでするなんて。私にもそんな熱量で謝るなんて」



「そ、そう?」



「よっぽど素敵な出会いがあったんだね。ちょっと悔しいけど、嬉しいよ」



 彼に訪れている変化。



 レナはバイトを通して変わっていっている慧を感じ取っている。



 そして慧も同じくそう思う。




 でも、

「レナがいたからだよ」




 嘘じゃない。



 レナがいたから今まで人との繋がりを断ち切らずにこられた。



 いつでも気にかけてくれたから。



「そ、そう? わ、分かってればいいけど」



 オホホと笑い声が電話の向こうから聞こえてくる。



「で、どんな人なの?」



「え?」



「聞かせてもらう権利はあるわよねぇ? 私が知恵を貸したんだから! どんな人?」



 いつもの調子に戻ったレナ。



 慧も安心する。



 そして慧も向き合わざるを得ない。



「彼女は穏やかで、落ち着いてて、驚かすのが好きな人かな」



「へぇ、魅力的な人」




 レナの興味深そうに言う声が聞こえてくる。




「どんな格好してた?」



「暗い色のワンピースに麦わら帽子かな」



「私もワンピース買わなきゃ!」 



 レナが小さく呟く。



「ありがとう。相談してよかったよ」



「今日はどこに行ったの?」



「今日は朝コーヒー買って、海行って昼ごはん食べて。その時に電話して、その後映画見に行ったんだよ」



「デートじゃないの? それ」



「違う違う! 断じてそうではない!」



 レナの笑い声が響く。



「とにかく、上手くいったんだね」



「あぁ、すごい喜んでもらえたよ」



「なら良かった」



「このお礼は絶対するよ」



「忘れないでよ?」



「次は俺がしっかり計画考えるから、できる限り豪華なの」



「豪華なのはいらないし、二人で考えよう?」



「いいの?」



「うん、その方がたくさん話せるし」



「わかった」



「楽しみにしているからね! デート」



「…うん」



 電話を切った。





「良かった、誤解は解けただろう」



 慧はベッドに寝転ぶ。



「デートか」



 正式なデートをするのは初めてということになる。



 レナと出かけることは大したことじゃないが、

「それはそれで、緊張するな。誰かに相談でもできればいいけど」



 そう考えていたが、徹夜が響いたのかいつのまにか眠りについてしまった。



 慧の長い一日が終わった。

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