少し真面目なお話?
慧の本音。人に心を開かなかった本音が栓を抜かれたように出てきた、彼自身も不思議なほどに。
そんな慧を前に、アスカは表情一つ変えず話し出す。
「人生なんてそんなもんだと思うよ。人それぞれにタイミングがある。別に同じ時代に同じ場所で過ごしてきたからって同じように転機が訪れてくれるとは限らない。ある人にとっては五歳のころに目指す道が見えることもあれば、五十歳で見える人もいて、もっと遅くの人もいる。慧君にはまだそれが来ていないだけだよ」
「そうでしょうか」
「アタシも同じだよ。そんな理由で大学を選んだけど、理由なんて人に胸を張って言えるものが立派なわけじゃないと思うし。あと、また次のタイミングが来るかもしれないし」
「でも決まってたほうが良くないですか?」
「早く決まることが良いことじゃないと思ってる。それに心が囚われちゃうからネ。
ゆっくりでいいのよ、ゆっくりがいいのよ。人生は長い! 急ぐ旅じゃない!」
「そんな言葉が出てくるなんて、アスカさんすごいですね」
たった一年しか違わないのにアスカは自分の求めている言葉を惜しみなくかけてくれる。
「まぁ慧君よりも長く生きてますから~」
アスカはお茶目に笑う。
「一年だけでしょ」
アスカは大きく笑う。
アスカは表情が豊かだ。それは様々経験をしていたからかもしれない。
ちゃんと、その時を生きてきたからかもしれない。
そんな彼女が少し羨ましく見えた。
「俺はあんまり人と接したり、興味もなくて。そんなこんなで人よりいろいろ経験したり、感動したりすることが遅くて、それも引け目を感じているのかも…」
これまではそんなことには目を向けないように、見ないようにしていた。
しかし今明確に、寂しいと感じる。
「いいじゃん!」
慧の予想に反してアスカは明るく反応する。
パチンと両手を叩いた。
「え?」
アスカは身振り手振りも交えながら話し出す。
「どんな時も初めてのハードルがあってね、最初が一番高いのよ。でも一度飛び越えてしまうとハードルは低くなる。でも最初に得た感動はそれ以降得ることができない。だから後にとっておいた方がいいよ」
「でもそれを茶化す人もいますよね」
事実、『アレをやったことが無い、コレを見たことが無い、ソレを食べたことが無い』と分かったとたん執拗に笑いものにしてくる人を見たこともある。
「確かにそんな人もいるよね。だけど『自分にはまだそれが来てない、だから皆が経験した最初の刺激をこれから自分は感じられるんだー! 羨ましいだろ!』ってドンと構えてればいいのよ!」
「確かに」
まさに見方を変えれば、物事との関わり方も変わる、ということか。
経験していないからこそ、幸せを感じられることもあるということだろう。
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