慧とアスカ、二人の大学生



「俺、親を事故で亡くしてるんです。それ以来何かいろんなことにあんまり興味を持てなくなっちゃって」



 言い訳にするつもりはないが、あの日から彼自身の何かが変わってしまったと、慧は考えている。



 変わってしまったのか、変われず止まったままのような。



 生きているのか、死んでいるのか。



 ケイコには訊かれたから答えたが、今回は自分から話すことにした。



「そうなんだ。なるほど」



「ケイコさんから聞いてないんですか?」



 てっきりケイコはすでに話をしていただろうと思っていたため慧は驚いた。



「ケイコちゃんには話したの?」



 慧はこくりと頷いた。



「ケイコさんが来た夜に訊かれたので話したんです。てっきり全部アスカさんには話したのかと」



「ケイコちゃんはご両親のことは言ってなかったよ」



 ケイコはアスカには慧の両親のことについては何も言わなかった。



 黙っていてくれたのだ。



 彼自身が自分の口で話すべきだと考えたのだろうか。



  ただ、言わなかったのか。



 ケイコはあまり自分の本質を見せない人物な気がした。



 少女のようで魔性の彼女。



 彼女はやはりどこかつかみどころのない性格をしているように思われる。



「じゃあさ、興味のある授業を受けてみなよ」



 慧が考え込んでいると、アスカが提案を一つした。



「え?」



「せっかく家も大学に近いんだからさ、興味のある面白そうな授業を受けてみたらいいよ。それに単位も取れるものもあるだろうし」



「そうですね、何がいいかな」



「読書好きなら文学の授業を受けてみるとかは? 私の友達にそういう子いるよ」



「なるほど」




「興味があるものは最初の授業で見てみるといいよ。試しに受けてみてイヤなら履修をやめればいいだけだし。先生との相性も大事だよね。同じ授業でも先生によって内容とか進め方とか全然違うから」




 大学では高校までとは異なり、受ける授業の教師を選ぶことができる。どんな授業を受けるのか、どんな時間割にするのか、どういう学生生活を送るのか、学生たちには自発的に動いていくことが求められる。



 話ではそう聞いていたが、慧はなかなか慣れることができずにいた。



 頭を使うとは、なかなか難しいものだ。




「アスカさんは何を勉強しているんですか?」



「アタシは主に文化とかかな。文化学部だから」



「なんでその学部に入ったんですか?」




「まぁ…、不可思議な旅館でバイトしていたからかな。伝説だと言われていたものと出会って、いろんな伝統文化を勉強するのも面白うそうだなって」




「俺は明確な何かに出会ったことないです。いつもなんとなくで決めてきたんで。理由がある人が羨ましいです」



 慧の本音。人に心を開かなかった本音が栓を抜かれたように出てきた、彼自身も不思議なほどに。

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