海へ行きます



 慧も自分のカフェラテを口にする。



(なんか自分がおしゃれな人間になった気分)





 満足したのも束の間、この後を考える。



 問題はここからどこに行くかである。



 今は夏休みシーズン、どこも混んでいる。



「海に行ってみますか」



 海なら波の音で人の声もかき消されると考えた。



 それに海なら独り言を話している人くらいいるだろうと思った。



 慧は遊泳できるビーチは選ばなかった。



 その方が人は少ないと考えたためである。



 慧は海の近くの駐車場に車を止めた。



 波の音、潮風を感じる。




「ここからは歩いていきましょう」



「ザブーン! ザブーン!」



 波の音が大きくなってくる。



 遊泳のためのビーチではないため、人はほとんどいない。



 いるのはアツアツな雰囲気のカップル達である。



「暑いのに、あんなにアツアツで」




 彼らは夏の暑さも気にせずお互い手をつなぎ触れ合っている。



 そんなことは興味を示さずケイコは海に夢中になっている。



「わぁ! 私こんなに海に近づいたの初めて!」



 ケイコの長い黒髪が風に吹かれる。




「私こっちの世界を見たことないから、全部が新鮮だよ。ずっと見てみたかったんだ、旅館でお客さんの話を聞くだけだったから」




 ケイコは髪を耳に掛ける。



 その姿は素敵な画になっている。



 そんな様子を見ながら慧は考える。







 そんなはずはないのだ。



 ケイコは幽霊であるから、生前はこちらの世界にいたはずである。



 なぜ彼女はこうもすべてに新鮮な反応をするのだろうか。





 彼女は何者なんだ……?





 慧の中に起こる疑問。



 しかし、

「楽しそうだな」

 それ以上にケイコの様子に見入ってしまう。



 楽しそうな彼女。



 無邪気な笑顔。



 そんなことを考えているうちに疑問はどこかに行ってしまった。



「ねぇ、慧君。お願いがあるんだけど」



 ケイコが近づいてくる。



「もう少し見てみたいんだけど、どこか行ける所、あるかな?」




 優しく彼女は微笑む。



 何か彼女がもっと楽しめるようにしたい。



 それは彼女に対する慧の気持ちの表れだったのかもしれない。




 両親のことを話せたこと、聞いてくれたこと。


 感謝。



 それは慧にとって大きな変化だったのかもしれない。



 旅館に対する慧の気持ち。



 今自分の目の前にいる人にできることをしたいと思った。



 しかし何も思い浮かばない。



 ケイコは今も楽しそうに海を、空を、雲を、鳥を、見つめている。



 そんな彼女に無理だともいえない。



(考えても何も出ないなら…)





「一番やりたくないことなのに……」





 慧は電話を取り出した。




「友達がいないことを今日ほど恨むことは無いな」





 ある人に電話をかけた。



 数回のコール音。



「もしもし? 慧ちゃん?」




「レナ、ちょっと相談したいことがあって」

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