出発進行



 久々に徹夜をした朝。



 初めて女性と過ごした一晩。



 ロマンティックなことは何一つなかったが、実にスリリングであった。



「ねっむいわぁ」



「良く寝れなかったのか?」



「うん、まぁね」



 今日はケイコにこっちの世界を見せて回る約束になっている。



 ケイコは慧の部屋でまだ本を読んでいた。



「あ、着替えたんですね」



「うん、この漫画に出てた女の子と同じ格好をしてみたんだ」



 確かにケイコの格好は彼女が気に入った漫画のヒロインが着ていたものと同じだった。



 暗めのワンピースに麦わら帽子。



「私おしゃれとかよくわからないから、この子の服を真似してみたの」



「便利な能力ですね」




「じゃあいってきまーす。車乗ってくねー」



「気を付けて」



 車に乗り込む。





 今日は運転席に座る。



 助手席にはケイコが乗っている。



「慧君、今日はよろしくね」



 そう言ってケイコは微笑む。



「はい、出発します」



「お願いします」



「どこに行こうかな」



 適当に車を走らせているが、どこか目的地があった方がいいだろう。



(でも、誰かと遊びに行った経験ないぞ。みんなどこに遊びに行ってるんだ?)



 レナと行ったカフェを思い出す。



(さすがにレナと行ったお店に連れていくのはまずいかな)



「まずは飲み物とかかな。なんか飲みたいものとかはありますか?」



「う~ん・・・」



 ケイコは考え込む。



「コーヒー系が飲みたいかな」



 コーヒーといえば、慧がよく利用するのはコンビニで淹れてもらえるカフェラテだ。



 手ごろで美味しいのが嬉しい。



 一人ならそれで十分だが、今日はケイコもいる。



 コンビニでも良いが、メニューが多いほうが初めてのケイコはいろいろ選べて楽しいかもしれない。



 それに、コンビニではケイコと共に車から降りてやり取りをしなければならない。



(絶対に、無理だ‼)





 その時、あることを思いつく。



「そうだ、ドライブスルーを使ってみよう」



 ドライブスルーなら、車に乗ったまま注文から購入ができるだろう。



 この道の先に慧が気になっていたコーヒーショップがあるのだ。



 あるが、少しオシャレなため敷居が高く、入れていないお店である。



(まぁ、でも今日は勇気出すか、こんな日でもないと試せないし)



 慧は車をドライブスルーのある店へ入れた。



「いらっしゃいませ! ご注文はお決まりですか?」



 スピーカーから店員の声が聞こえてくる。



 ケイコにメニューを手渡す。



「ちょっと待ってください」



「こんなにたくさんあるんだ」



 ケイコはメニューを見ながら驚く。



「慧君はどれにする?」



「俺はカフェラテにします」



「じゃあ私はコーヒーフロートっていうのにしようかな」





 慧は注文を済ませた。



「こちらアイスカフェラテとコーヒーフロ―トになります!」



「ありがとうございます」



 支払いを済ませて、店を出る。



「はい、こっちがケイコさんのです」



「ありがとう。お金まで出してもらっちゃって、あとで私の分渡すね」



「いや、いいですよ。俺が来たかったところですし」



 レナに言われたことをそのまま言ってしまった。



「……お言葉に甘えて、いただきます」



 ケイコはコーヒーフロートを口にする。



「美味しいね!」



 目を瞑って味を感じている。



 慧も自分のカフェラテを口にする。



(なんか自分がおしゃれな人間になった気分)

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