現れた彼女
慧は部屋にいる彼女に声をかけた。
「ケイコさん」
慧の部屋には、なぜかケイコがいたのである。
「驚かせてごめんね、慧君」
ケイコはウフフを肩をすくめて笑った。
「いっつも驚かされてますよ」
慧はケイコの前に立った。
「でもなんでここに来たんですか?」
一番大事なことはなぜ彼女がここにいるかである。
「この間慧君が旅館にお客さんを連れて来た時に思いついたんだ。幽霊を連れて来れた慧君になら憑いていけるんじゃないかって。逆にこっちの世界にも来ることができるんじゃないかって」
慧はあの日の休憩時間、ケイコとの会話を思い出す。
確かに、何かを思いついたような態度をしていた。
「なるほど」
慧は自分のベッドに腰を下ろした。
「じゃあ今日俺の後をずっとつけていたんですか?」
そうなると、レナとのすべてを見られていたことになる。
急に恥ずかしさがこみあげてくる。
「ううん、ずっとこの部屋にいたよ。慧君の部屋ならついていなくても大丈夫みたい。どこか出かけていたんだね」
ということは昨日の夜慧の寝ている姿を見られていたかもしれないわけだ。
気が付かなかった。
なぜ声をかけてくれなかったのだろう。
観察されていたのだろうか。
それはそれは恥ずかしい。
「昨日の夜から見てたんですか?」
彼女は微笑みながら首を横に振る。
「お盆のお客さんみたいに誰かに憑いていくのは初めてだったからうまく意識を戻せなくて、眠っていたみたいになってた…、慧君のことは見られなかったよ。ここに来たのは昨日慧君が帰ってきたのと同じだけど。残念」
ケイコは自分の黒髪を優しくゆっくりと撫でた。
「残念なんて…、見なくてラッキーでしたよ」
自分の寝顔なんて人に見せられたもんじゃないと慧は赤面する。
「でもどうして俺の部屋に…?」
「私もこっちの世界を見てみたくて」
ケイコは慧の隣に、ベッドの上に腰かけた。
「どこか案内してくれたら嬉しいな」
彼女は微笑む。
「……なにか見たいものとかあります?」
ケイコは首を横に振る。
「私、全然わからなくて」
慧は頭を抱える。
幽霊を連れていくとなると行ける場所は限られる。
まず人が多い所は無理だ。
周りの人にはケイコは見えないから、慧がケイコの話をしているの見たら、独り言をしている変人だと思うだろう。
そんな恥ずかしいことをする度胸はない。
(この辺、人がいないところあるかな)
この町は比較的静かな田舎だが、今は夏休みシーズンだから、人のいないところを見つけるのはほぼ不可能だろう。
(そんなことよりも……)
レナ以外の女性が自分の部屋にいる。
自分の隣にいる。
幽霊ではあるが、それでも慧の知る限りでは素敵な人物である。
いやでも緊張してしまう。
恋人などいたことがない慧には刺激が強すぎるのである。
それにケイコは少し無防備というか、魔性な所があると慧は前から思っていた。
今もそうである。
部屋で男の横に座るなど…。
わかっていてやっているのだろうか。
少々居心地の悪さを覚える。
全部彼女のせいである。
「明日お休みだよね。私もお休みだから一緒にどこか行かない?」
ここで断る選択をできないのは、これまでの旅館でのバイトの経験と直感で感じる。
「わかりました……いいですよ」
「良かった、ありがとう! 明日が楽しみ!」
ケイコはパァと笑顔になった。
ケイコは慧の部屋の椅子に腰かけた。
「え? ここにいるんですか?」
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