最近のこと教えてよ



「そうだ、何のバイト始めたのよ?」



 レナは思い出して、慧に問う。



 その目は興味津々である。



「内緒だって」




「何でよ!」

 レナがズイっと顔を近づけてくる。




「それとも私には言えないバイトだとでも? 健康に悪いとか、女の人にいやらしいことされるような、変なバイトじゃないでしょうね?」




「そんな不健全なバイトじゃないって! なんだよ、いやらしいことって」



「私の口から言わせないでください!」



「まぁ、不健全なバイトじゃないから、安心して。あと顔が近いですよ!」



 レナは慧のドリンクを取り上げ、思い切り飲んだ。



「あ、俺の!」



「あー 美味しい!」



 ストローにレナの口紅がついている。



 派手ではない、薄い色の口紅が。




「ま、ちゃんとしたバイトならいいけど」



 不健全なバイトではないが、変なバイトではある。



 嘘はついていないが、真実を話したわけでもない。



 レナは慧をよく心配する面がある。



 同い年なのに、お姉さんぶるところがある。





 レナの家族事情が関係しているのだろう。



 彼女の両親は会社を経営しており、よく飛び回っていて家を空けることが多かった。



 両親は彼女も連れて行こうとしたのだが、「私はここにいる!」と一人で残る決断をした。



 料理、掃除、洗濯、身の回りのことはほとんど一人でこなせるようになった。



 それが彼女を世話好きにさせたのかもしれない。



 そして慧自身もつられて弟キャラのようになってしまう。



 それが慧とレナのバランスである。



 お互い無意識に求めていもいるのかもしれない。







「どんなバイトしてるかくらい教えてよ」



 こうなったらどうやっても動かないレナ。




 それを知っているので、

「旅館のバイトだよ」



 旅館で働いていることだけは伝えた。



「へぇ、意外! でもこの近くにあったっけ?」



 レナは自身の記憶をたどり、近所の旅館を探す。



 その中にそのような旅館は見つからなかった。



「うん、あるんだよ」



「なんてとこ?」

 レナは一気に聞いてしまおうと慧に問いかける。




「それは秘密」



 名前を言ってしまったらレナがたどり着くかもしれない。



 彼女があの旅館に行ける人物なのかはわからないが。




「なんでよ! そこまで言ったらいいでしょ?」



「だって言ったら泊まりに来るとか言いそうなんだもん!」




「そう隠されると、旅館っていうのが余計にいかがわしいところに聞こえてくるわね」

 レナは目を細める。




「考えすぎだわ!」



 レナには言えない、だから彼女の目を見たまま動けない。



「まぁ、いいわ。勘弁してあげる」




「レナはやってないの?」



「私はやってない。勉強一筋」



「勉強難しそうだもんね」



 レナの大学は課題が多いと評判である。



 毎日課題をこなさなければならないので、勉学に対して気持ちが高い学生でなければ通えない。



「そうでもないよ」



 涼しい顔してそう言う彼女。



 それでも少し強がりを言うところも彼女らしい、と慧は思う。

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