今振り返る
その日以来、クラスは「みんな仲良く」がなくなった。
気が合う仲間と話し、一人が好きな子は一人でいる。
仲間外れとかそういうものはなくなった。
ただ、「そうしたいからそうする」、そういうクラスになった。
クラスは別に仲が悪くなったりすることは無かった。
むしろ、雰囲気は良くなったように思う。
皆がお互いに心地よい距離感で付き合いだしたからである。
今になって、慧は考える。
担任の対応は別にそこまで間違っているわけでもなかったと思う。
教師として、できることをやった結果があの対応だった。
教育のルールに則ったこと、彼女なりにクラスを作ろうとした。
でもそれは子供たちのためにはならなかった。
クラスとは、教師だけが作るものではない。
そこで過ごす子供たちも作っていくのだ。
それをあの時理解できていれば、もう少し何かが上手く行っていたのかもしれない、そう慧は思った。
しかし慧にとって印象に残っていることはあの日の帰り道のことである。
レナと二人で帰る道の途中のこと。
「ちょっと言いすぎたかな?」
レナが小声でそう言った。
彼に対しての言葉がきつすぎたかということを反省、後悔しているのだ。
相手を傷つけてしまったかもしれない。
明るくふるまう中で、心ではいつも気を遣っている人なのだ。
今回の件は特に、はっきりと自分の気持ちだけを優先してしまった。
彼のことは二の次だった。
「いいんじゃないの。言わなきゃわからない相手だっていっぱいいるよ。レナに言ってもらえて良かったって思ってる人もいるよ」
「そうかな?」
「俺はそう思ってるよ」
レナが不意に慧の手を握ってきた。
ぎゅっと。
その後、言葉は交わさなかった。
今思えば、あの彼はレナのことが好きだったのだと慧は思う。
よくちょっかいを出していた。
しかしそれがレナにとっては嫌だったのだ。
もう少し出会うのが遅ければ、二人は仲良くなることがあったのかもしれない。
そうならなかったのも…また、運命だったのかもしれない。
「慧ちゃん、何考えてるの?」
レナが慧の顔を覗き込む。
「ちょっと昔のことを思い出して」
「どんなこと?」
レナは思い出したくないことかもしれない。
「こんな青空の下でピクニック行ったなぁ、とか」
「えー、こんな暑い中ピクニックはいかないでしょ」
「空が似てるなって話。もうすこし涼しい季節、六月初めくらいだったかな」
青空に大きな入道雲が広がる。
なんの思い出もないのに、この空を見ると、何とも言えない夏の高揚感を思い出す。
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