あの日、クラスで



 レナは昔からしっかりしていたところがあった。



 男女分け隔てなく接するタイプだった。



 誰とでも、いつでも、明るく振舞っていた。



 慧の中でそんな彼女の印象的な出来事が起きた。



 それは二人が小学生時代。



「おーい! ササクレー!」

 同じクラスの男子がレナのランドセルをドンと叩いた。



「ちょっと! やめてよ!」



「そんな顔すると、将来シワシワになるぞー! 慧、今日も暗いんだよ!」



 慧のランドセルもバンと叩くと、ウキャキャと彼は走っていった。



 彼は慧とレナのクラスメートで、オレ様キャラのガキ大将であった。



 慧はレナ以外のクラスメートは苦手だったが、彼は特に苦手だった。



 少し乱暴なところが好きになれなかった。




 しかし担任は「クラス皆誰とでも分け隔てなく仲良くしましょう」と指導するので、慧自身もそれが正しいのだと思っていたし、だから苦手な彼とも渋々付き合っていた。




「ほんっと、困る」





 小学校時代、レナは「ササクレ」と呼ばれていたことがある。




 佐々木レナの名前が「ささくれた」に似ていることから、あの男子が「ササクレ」と彼女にあだ名をつけた。




 他にもクラスメートに様々なあだ名をつけた。



 彼自身が中心的な人物なだけあって、他の者もそのあだ名で呼んだりすることがあった。




 それに対して、あまり良しとしなかったのが担任であった。



「みんな、仲良くするのが大切でしょう?」



 当時の担任の教師がクラス皆の前で説教をした。



「変なあだ名をつけるのは止めましょう。特に佐々木さんの気持ちは考えたことはありますか?」



 特にレナのあだ名がひどいと感じたのだろう。



 しかし、

「先生、私は気にしていないので、ささくれと呼ばれるのは大丈夫です」

 レナは担任に向かい、はっきりとそう言った。




 担任は目を丸くして驚いた。



 彼女がそんな反応を見せるなんて思いもしなかったのだろう。



「で、でも……」



「私は大丈夫です、でもね……」



 レナはその彼のほうへ向かっていく。




「変に呼ばれていやがっている子もいるかもしれない。他の子に乱暴していやがっている子もいるかもしれない」




 レナは彼をにらみつける。



 あまりの迫力に彼はたじろいだ。



「そんなのわかんないだろ! 訊いたのかよ⁉」



「聞いてない、というかそんなの私には関係ないし」



「はぁ!」



 彼が大声と共に立ち上がる。



 レナをにらみ返す。



 教室内に緊張が張り詰める。



 教師に怒られているときでさえ、ないほどに空気がこわばった。




「不愉快なのよ! あなたが他の人に変なあだ名で呼んでいるのを聞くと! だから止めて! 私のことをどう呼んでも構わないけど」



 レナの冷たい声が教室に響いた。



 少年は口をパクパクとさせて固まった。



「いい?」



 レナはズイッと彼に詰め寄る。



 彼は無言で頷いた。




 そこで終わった。








 そのあとは普通に授業が再開されて、何事もなかったかのような生活が戻った。



 担任は少しその後の授業がやりづらかったようにみえた。



 その後、その少年が悪目立ちをしなくなった。



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