出会った二人
「はい、俺たち死んだ後の、あの世で出会ったんです」
彼のほうがそう告白した。
「俺、数年前に、若いのに死んじゃって…、そのときはいろいろ恨みました。『あぁ、こんな運命なんて』って。『まだ燃えるような恋の一つもしていない』って。でも…」
男性は女性の幽霊を見る。
そして彼女の手を握った。
「彼女とは死んだ先の世界で出会ったんです。彼女も若くして亡くなっていて」
「おやまぁ、そうだったんですか」
「彼女も数年前に亡くなられたんですか?」
慧は二人に尋ねる。二人の見た目の若さが同じようだったから。
「私は死んでもう九十年になりますかね」
彼女は微笑んだ。
「九十年⁉」
驚く慧に二人は大笑いする。
「生きている人からすると、驚きですよね。でもこっちの世界だと普通なんですって。俺の知っている限りでは生前の年齢差が二百年の人もいますよ」
二百年、死後の世界はこちらの世界よりもいろいろと懐が広そうだ。
「最初は戸惑いました。私と彼では、生きてきた世界がまるで違う。でもよく似ていたんです、私達。こんな素敵な人に生前で会えたことはありません。そう思えたら早く死後の世界に行けたのも悪くないかと。そんな人を待ち続けることができて良かった」
「僕はずいぶん待たせてしまったけどね」
「そんなことないわ。これからあなたと待った時間以上に一緒にいられるんですもの」
二人は笑いあう。
周囲で聞く者のほうが赤面してしまいそうなほど、二人はお互いに熱い視線をかわす。
しかしその視線にいやらしさは微塵もない。
(確かに、よく似ている。出会うべくして出会った二人か)
「素敵な出会いは生きているだけじゃないよ。まぁ、生きている中で求めるのも素敵ですが」
「素敵な出会いがあると良いですね」
(なぜか励まされてしまったな)
そして彼らは牛に似た生き物に乗った。
「もうあちらの世界に帰るんですか?」
「いえ、まだいろいろ回っていこうと思います。帰るのはゆっくり行きます」
牛に似た生き物はゆっくりと歩き出し始めた。
ノソノソトと歩いていく。
「帰りはゆっくりか」
「急いで帰る必要もないしね。すぐ向こうの世界に帰る人もいれば、別の世界に遊びに行ったりすることもあるみたい。自由だよね」
お見送りも大切な旅館の仕事である。
慧は旅立つ皆の背中を眺めていた。
また旅館はゆったりとした時間が戻ってきた。
涼しい風が吹く。
少し寂しさの残る静けさである。
幽霊たちが夏を連れて行ったような感覚。
「……存在感たっぷりだったなぁ」
「アツアツカップル、見せつけられちゃったね!」
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