餃子、食べます



「ささ! 慧君も食べよう!」



 アスカが皿に大量に盛られた餃子を手渡してくる。



「いいんですか?」



「もちろん! 従業員も皆で楽しむのがウチのイベントだよ!」

 アスカはニッコリと笑った。



「慧君、このタレで食べてみるかい?」

 津軽が小瓶に入った液体を見せる。



 赤色のトロリとした液体だ。



「何です? これは」



「この辺りでとれる植物で作ったタレ、というかラー油みたいなものだね。少し辛めだけど、餃子の持っている甘みが引き立つと思うよ」



 慧はためらう。



 何か分からないものを口に入れるのは気が引けるが。



(でも挑戦してみるか)



「ありがとうございます」



 慧は少量を餃子に垂らす。



「いただきます」



 餃子はサクリと音を立てた。



 焼き目はサクサク、皮はもっちり、中身はジューシー。



 そして津軽が作ったタレも良い仕事をしている。



 ピリリとした辛みが餃子の味を引き締め引き立てる。



 カゲロウの味付けは抜け目ない。



 ここまで幸せな気分にさせるとは。



「いや、味だけじゃないな」



 慧はあたりを見る。



 多くの人がいる。



 仲良い人も、見知らぬ人もお互いに作用しあっている。



 皆でこの雰囲気を作っている。



「美味しさは、景色も含まれるってことか」



「お! 言うようになったネェ、若者よ」



 アスカがニヤニヤと笑う。



「一歳差ですよ」



 アスカの皿には山盛りの餃子と山盛りの白いご飯。



 これが二回目だというから驚きである。



「しかしアスカさん、よく食べますね」



「おほほ! 乙女は大食いなのよ。まだまだこれからよ!」



 アスカは美味しそうに頬張る。



 いつも最初の一口目のように。



 大量に食べていても食べ方には品があるところが、やはりお嬢様だからだろうか。



 細い体のどこに入るのだろうかと不思議である。



 イベントは実に盛り上がった。



 人間、幽霊、妖怪、全ての客がたらふく食べてお腹を満たした。



「美味しかった!」



「もう食べられないよ!」



 イベントは大成功だといって良いだろう。



「皆今日は遅くまでお疲れ様でした。おかげで無事に終わって良かったです」



 女将が旅館の従業員に声をかける。



「あとは片付けですね」



「大変だけどお願いできるかな?」



「了解でーす!」



 そのあとは慧とアスカで片づけてその日の仕事を終えた。




 今日もいろいろなことがあった。




 皆で森に行って不可思議なものを見た。




 餃子を旅館のみんなで包んだ。




 そのあとは皆で焼いた餃子を食べた。




 朝から晩まで賑やかな一日だった。




 こんなに賑やかな一日を過ごすのは、本当に久しぶりだった。




「……楽しかったな」




 ぽつりと彼は確かめるように呟いた。


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