餃子をくるむ会



「……〜ってことがあったんですよ。ツアー中」

 ツアーから帰ってきた後、慧は食事の準備をしに、厨房へ来た。



「そっかぁ、慧君はあの果実食べなかったんだぁ。あれ美味しいんだよねぇ!」



 厨房にはカゲロウ、アスカ、それとコロちゃんズの何体かがいた。



 皆椅子に座って何か作業をしている。



 餃子を包んでいるのだ。



 客の数が多いので大量の皮とタネが用意されている。



 慧も空いている椅子に腰かけて餃子をくるみだす。



 今日は餃子焼き大会という、ちょっとしたイベントをやるという。



 ただみんなで大量の餃子を食べるのである。



「ター坊は美味しそうに食べてましたよ」



「ター坊は食いしん坊だからネ~」

 アスカは楽しそうに話しながらせっせと餃子をくるむ。



「アスカさん、包むの上手いですね」



 アスカの包んだ餃子は両側にヒダがあり、キレイな形をしている。



 お店で出てくるような整った形だ。




「慧君のはペッタンコだね!」

 慧の包む餃子は、皮を折りたたんだだけの作りだった。




「俺、その包み方できないんですよ」



「まぁコツがね。でも大丈夫、食べれば味はおんなじ! 形に個性が出るのもオウチ餃子の魅力だよねー」



 カゲロウもウンウンと頷く。



 カゲロウは片手で一つの餃子をくるんでいた。



 一度に二つの餃子を作れるという神業である。



「でもそれは、早いのかな?」



 カゲロウはフフフと笑った。



 皆の餃子はそれぞれ似たようで少しずつ形が違っていた。



「コロちゃんズも皆上手いネ!」



 コロちゃんズの皆は嬉しそうに目を細めた。



「楽しそうで何より」



「ツアーはどうだった?」



「いろいろ見られましたけど、やっぱりこちらの世界も危険はあるんだなって」



「そーねー」




 ツアー中毒のある果実以外は特に危険はなかったが、安全な世界ということだけではないことはわかった。





 皆のために創られた理想の世界ではないのだ。



 生と死が曖昧な世界で、命を落とすこともある世界。



 それゆえに別の恐怖もある。






「危険はあることはわかって、慧君はツアーどうだった?」

 アスカは慧を見つめて笑う。



(あの時と同じ顔をしている)



 初めて黄昏館の秘密を聞いた後のあの顔。



 いたずらっ娘の顔。



 慧の心の内を知っていながら訊いてくる顔。



「楽しかったですよ。発見があって面白いですね」



 何か一歩間違えれば死ぬかもしれない恐怖。




 恐怖とはよく分からないものから来る感情でもある。




 だからこそ、知りたいと思う、好奇心が生まれる。




 その好奇心こそ、生きる源であると慧は思った。




 死から生を得るとは何か不思議な感じがした。



「それはそれは、素直な感想でなにより!」

 アスカは満足そうに笑う。



(すこしかっこつけすぎたかな)




「でもアスカさん、旅館の外が危ないって大げさに言ったでしょう?」




「おや、何のことでしょう?」

 アスカはとぼける。




「よし! たくさん餃子ができたね! これくらいで大丈夫でしょ!」



 大量の餃子が完成した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る