その実、毒⁉
「お待たせしましたー!」
ほどなくしてアウルが楽しそうに戻ってきた。
「津軽さーん、この辺は特に危ない動物はいないですよ。でもこの先行ったところに珍しいのがいるのが見えたので運が良ければ会えるかも~」
子供がアウルへ近寄っていく。
「こんにちは」
「こんちは!」
子供がアウルへ触る。
モフモフの羽で体が覆われているアウル。
ぬいぐるみのような触り心地が気持ち良かったのか、子供がアウルを抱きしめた。
「良い羽毛布団みたいでしょ。お店で買ったら高いよ」
アウルも翼で子供を抱きしめた。
翼が子供の体をすっぽりと覆いこみ、アウルの体が一回り二回り大きくなったように見えた。
「かわいいねぇ、持ち帰っちゃおうかな。うちの子になるか?」
アウルの問いに子供は「うん」と頷いた。
「じゃあお父さんお母さんにバイバイして」
子供が両親に手を振る。
アウルは片手で子供の体を抱き、片手で宙に浮き始めた。
「おーい! どこいくんだー?」
父親が子供に声をかける。
アウルは父親のほうへ飛んでいき子供を彼の胸の中に預けた。
「なんてね。お父さんお母さんと仲良くね」
アウルが子供の頭を撫でる
「アウルさん、ありがとうね。また何かあったら呼ぶね」
「りょーかいです! 近くにいるんで呼んでくださいね」
アウルは再びバッサバッサと飛び立った。
軽い感じで皆と交流し、皆の緊張感を和らげてアウルは去っていった。
変な穴を見た後の全員の不安を払しょくするのに、タイミングがばっちりだったというわけだ。
(津軽さんってかなり周りの空気感を呼んでるんだな)
女将が津軽を信頼してツアーを任せる理由はそこにある気がした。
一人の客が草の中に赤い実がなっているいことに気が付いた。
「これいちごみたいに綺麗な赤ですね。おいしそう」
客の一人が実に手を伸ばす。
「これは食べるとしびれて体が動かなくなる実だね」
いつものようにおっとりとした口調で津軽は客へ教えた。
「え! そうなんだ」
客は手を引っ込めた。
「あそこにある黄色の実は食べると高熱が出るほどの毒があるし、この葉っぱは食べると人なら死んでしまうほどの毒がありますよ」
津軽は淡々と説明する。
皆を安心させるための配慮だろう。
「この森はこういうのがあるからね、気を付けないとね」
津軽は微笑んだ。
「全然わからないですね。毒があって食べられないとは思えないもん。おいしそうだし」
「でもね、この実をよく煮詰めると、毒が消えて、甘いシロップになるんだよ」
「食べる方法があるんですか?」
「えぇ、旅館でもそのシロップを使った飲み物をご用意していますよ」
「帰って飲んでみようね」
親子が言う。
「炭酸水と割ったものがおススメですよ。今日みたいに暑い日は特にね」
近くで聞いていた慧。
「毒があっても食べられるんですね」
「不思議だよね。少し手を加えるだけで美味しくなっちゃうんだから」
津軽は毒のある実を手に取り、まじまじと見つめる。
「全てのものは毒であり、薬。見方、関わり方、視点を変えてみると変わるんだね」
津軽の言葉は食べ物のみについて語っていることではないような言い方が印象的であった。
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