ガイドツアー、アウル登場



 一行は津軽についていきながら、森のほうへ歩いていく。



 朝だが、気温は高い、この後も凄く熱くなりそうだ。



 土の道を進んでいく。



 背の低い野花から森へ近づくごとに背が高い植物、木々になっていく。



 森の中に遊歩道があった。



 高い木々の間からところどころ日差しが抜けて、森の景色が幻想的である。



「この道は昔作ったものなんですよ」

 津軽は歩きながら解説をしていく。



 この道もよく整理されている。



 津軽がこまめに手入れしているんだろうか。




「お泊りになっている方も個人でこの道を歩いて遊びに行くこともあるんですよ。朝とかは気持ちいいですよ」




 森へ入って少ししたところで津軽は足を止めた。



「でも今日は少し違う道を歩いてみましょう。ここからは危険な箇所がありますので、絶対に離れないようにしてくださいね」




 森の中は慧の世界と特に変わったところはない。



 しかし、



「皆さん、向こうに穴があるのが見えますか?」



 確かに向こうには森には絶対にない「穴」がある。



 穴というよりは空間が裂けているようでもある。



「あの穴に落ちると、ここには戻ってこられません。絶対に落ちないようにしてくださいね」



 そう津軽が言うと、皆今まで以上にキュッとお互いの距離を近づけて歩き出した。



 親たちは子供の手をしっかりと握っている。



 森の中は静かだが、何かがいる気配がした。



 ツアーの客が出す音だけではない音が時折する。



 この森にすむ生物たちであろう。



 姿は見えない。



「今日は動物が見えませんねぇ。いつもは結構見られるんですよ。それならば…」



 おもむろに津軽は笛を取り出す。



「さてさて、今日は助っ人にも登場してもらおうかな」

 津軽が笛を吹いた。



「ピィー!」



 音が森に響く。




「はーい、お呼びですかー?」



 どこからか声がする。



 次第に近づいてくる。




「皆さん、助っ人のアウルさんです」




 バッサバッサと空から森の木の枝にアウルが降り立った。



 慧がアウルと会うのは、彼が旅館のチラシを祭りの前に届けに来た以来である。



 客たちから拍手が起こる。



 アウルはその拍手に応えるように片方の翼を上に挙げ、振った。

「皆さん、こんにちはー!」



 その姿はアイドルのようでもある。




「アウルさん、皆さんをガイドしてるんだけどね。周りで危ない動物とかいないか見て来てもらえるかな」




「了解デース」



 アウルは羽ばたき、上空へ飛んで行った。



「フクロウが話してるのって初めて見たー!」

 少年がはしゃぐ。



「ここの動物は少し特別だな」



 少年の父親が彼の頭を撫でる。



 慧はそんな様子を見ていた。



 まだ慧が小さかったときに両親からああやって頭を撫でられたことを思い出す。



 遠い記憶が慧の心に浮かぶ。



 優しい両親だった気がする。



 それ以外はどうだったのだろうか。



 よく笑っていた二人だった気がする。



 仲の良さそうな親子の姿を見ると、両親について考えてしまう。



 慧の中で無意識に両親を求めているのだろうか。



(いつか会えるのかな、俺がいつか死んだときとか)




 あわよくば、生きているうちに。



 できるなら早いうちに、会いたいなと思う。




(なんか最近子供みたいなことを考えることが多い気がするな)




 慧はボーっと客たちの様子を眺めていた。





「お待たせしましたー!」

 ほどなくしてアウルが楽しそうに戻ってきた。

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