昼休憩 後編


 アスカは慧の前に座り、まかないを食べ始めた。



「いただきます!」



 スプーンいっぱいにすくい、口いっぱいに頬張る。



「うーん! おいひい~!」



 目を瞑って味を感じている。




「慧君、昨日は何してた?」

 アスカは尋ねる。



「昨日はずっと家にいましたね」



「ガールフレンドとはいつ会うの?」



「ガールフレンドって…違いますよ、でも『来週会えるか』って昨日連絡来ましたね」



「お! どこ行くのかな?」



「まだ決まってないです。近所とかじゃないですかね」



「迷ったらお姉さんに何でも聞きなさい!」

 アスカはトンと自分の胸を叩く。



「絶対面白がってますね」



「そんなことないヨ!」



「そんなに詳しいんですか?」



「まぁ、慧君より長く生きてますから!」

 オホホホとおばさんのように笑った。



「一年だけじゃないですか」



「あたしは慧君よりも社交的ですから!」



「じゃあどんなデートしたことあるんですか? 俺のはデートじゃないですけど」



 そう慧が言うと、アスカはスンと表情を消した。



「?」



「ま…まぁ、いろいろよ! 語りつくせないわ!」



「はぁ」





「アスカさんこそ、昨日は何してたんですか?」



「あたしはね、友達と遊びに行ったよ」



 慧はアスカの友達を想像する。



 お金持ちなきゃぴきゃぴとしたお嬢様たちであろうか。



 白いTシャツとデニムだけのシンプルなファッションを不思議とおしゃれに着こなすタイプの人種だろうか。



(アスカさんと始めて会った時そんな格好してたよな)



 慧はアスカを見る。



「?」

 アスカは首を傾げた。



 慧はアスカの生活を少し想像してみる。




 遊ぶとしたら、おしゃれなカフェのテラスでおしゃれな飲み物を飲んで笑いあうんだろうか、などど考える。




(おしゃれに無縁すぎておしゃれな飲み物の名前すら出てこないな…、なんか色のついた炭酸系の淡い色のついた甘いやつだ。多分)



「どういうところで遊ぶんですか?」



「昨日はね近所の山を登ってきたよ! 朝から登って、お昼ご飯を頂上で食べてきた」



「あ、アクティブー…」



(キャピキャピ系というよりイケイケ系か?)



「今度あたしの友達も紹介するね!」

 慧はぞっとする。



 アスカのような元気印の女子が前に何人もいたら、気疲れして倒れそうだ。



 太陽も一つだから元気に暮らせるのだ。



 複数はいらない。



「いえいえ、大丈夫です!」



「みんな慧君のこと気に入ると思うのになぁ」



 気に入るとは、と慧は思う。



「みんな揃って美人だよ~?」



「美人でしょうけど、大丈夫です」




「そう? 残念だなぁ。でもまぁ、この町にいればばったり会うこともあるかもね! ばったり偶然会っちゃうことが!」



 その時は絶対偶然じゃないと慧は思う。



 結局いつか会うことになるんだろう、と本能的に思った。




「…ちょっと待てください。『今度アタシの友達も紹介するね』って友達『も』って何ですか? 俺紹介するなんて言いましたっけ?」




「ん? うん、慧君紹介してくれるんじゃないの?」



「しないですよ!」



「ふーん、そっか~。残念だなぁ。でもなぜか会えると思うんだよネ。私、勘が良いからさ!」



 なぜか否定できない慧である。



 そんなこんなで昼休憩は終わっていく。

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