昼休憩 前編



「慧君、お疲れ様! お昼休憩してね、これカゲロウさんが作てくれたまかない!」

 アスカにまかないを手渡される。



「ありがとうございます、じゃぁお先に」



 慧は食堂を出る。




「いやー、分かってはいたものの疲れたなぁ」 



 慧は休憩をとるために従業員用の部屋に入った。



 カゲロウが作ってくれたまかないを手に持っている。



 中にはさきに休憩に入っていたケイコがいた。



「お疲れ様、慧君」

 ケイコが微笑む。



「お疲れ様です」



 ケイコによれば、休憩はあまり必要がないというが、女将がしっかりと休憩をとるように言っているらしい。



 慧は部屋の隅に座る。

「いただきます」



 今日のまかないも美味しかった。



 すこし冷めてしまっているが、美味しかった。



 むしろ、冷めてこそ美味しい味付けになっているのかもしれない。



 働いた体に良く染みる味だ。



「う~ん、良い香り」

 ケイコが目を閉じてまかないの香りを感じていた。



 その様子に慧は少しどきりとする。



 ケイコは正座で座っていた。



 その足にはター坊が寝ていた。



「ター坊が鼻にティッシュ詰めてる。タヌキも鼻血出すんだ」

 慧がそう呟くと、ケイコは控えめに笑った。



「今日はお客さんが多いからテンション上がっちゃって、ずっと温泉につかっていたみたいだからね。のぼせちゃったんだね」

 ケイコは肩をすくめる。



「大丈夫なんですか?」



「大丈夫だよ。今は寝てるだけ」

 ケイコがター坊の体を優しく撫でる。



 ター坊はケイコのひざの上で額に濡れタオルをあてて休んでいる。


 スヤスヤと寝息を立てている。




「慧君、今日は朝から大変だったね」



「えぇ、なんか、ここに来る前から働いていたような感覚です」



「まさか幽霊のみんなを連れてきちゃうなんて、この旅館にぴったりの才能だね」



「そうですね、ここ以外で使える能力でもないですしね。幽霊を連れていくなんて」




 こんな能力よりも実生活で使える技術だったらなと思うが、なかなか望み通りの場所からは芽が出ないものだ。




(他のところで絶対言えないもんな!)



「ふ~ん…」




 すると、ケイコは何か考えている様子を見せた。



「あの、どうかしましたか?」




「ちょっと、思いついたことがあって」



「?」



 何ですかと訊こうとした時に部屋の戸が開いた。



「お疲れさんでーす!」



 アスカが元気よく休憩に入ってきた。



「アスカちゃんお疲れ様」

 ケイコが微笑む。



 ター坊はアスカの声にピクリと反応し、目をこすりながら起きた。



「ター坊寝てた?」




 ター坊は目をこすりながら慧に近づき、慧のあぐらの上に寝転んだ。




 ター坊は「撫でて」と言うように慧の目を見ながら自分の体を撫でていた。




「おう…」



 慧はター坊の体を撫でたり、トントンと優しく体を触ったりした。




 そのうちにター坊は再び寝息を立て始めた。




(あれ? なんで俺、今トントンとしたんだろう)




「じゃあ私は行くね。慧君、ター坊をよろしくね」




 ケイコは立ち上がって部屋を出ていった。




「慧君、寝かしつけ上手いね」


 アスカは慧の向かいに座った。

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