光の玉の正体


 慧は光の玉たちを背後に連れて旅館の庭を進んでいく。



 庭では津軽に会った。


「まぁまぁ! 今日は凄い大名行列だねぇ」



 津軽が列を眺めながら言う。



 他の宿泊客も物珍しそうに眺めている。



 慧が歩くと、宿泊客たちが道を開けた。



 まさに参勤交代の大名行列とはこの様だったのだろうか。



(恥ずかしいよ)



 足早に旅館の中に入る。



 慧が光の玉たちを後ろに連れて旅館へ入ると、女将とアスカが驚いた顔を見せた。



 二人は目を丸くしたまま慧を見る。



(やっぱりまずい状況なのか)



 慧は息をのむ。



「これはすごい…!」



 そうアスカが呟いた。



 そして二人は笑顔になった。



「おやまぁ、これはまた珍しいねぇ」



「これはすごいネェ!」



 二人はフフフと笑いあった。



 二人は事情を知っているらしい。



「あの、これらは何なんでしょうか? 昨日の祭り終わりから、視線みたいなものを感じて、振り返っても何もないのに、さっき見たらこんなことになっていて」



 慧は焦って一気に話す。



 そんな彼の様子とは真逆に、女将とアスカは落ち着いて聴いている。



「慧君、お客様だよ、きっと」



「いらっしゃいませ。皆様、こちらへどうぞ」



 女将が受付へ光の玉を誘導する。



 光の玉は慧の背後からゾロゾロトと受付に並びだした。



「え…、それはどういう」



 慧は訳も分からず視線を泳がせる。



 少々混乱気味である。



「慧君に憑いてきたんだね!」



「俺に?」



「多分、お祭りのときに帰ってきて、慧君を見つけたんだね。それで旅館へ行くため

に慧君に憑いてここに連れて来てもらったんだと思う」



 アスカは顎に指をあてて考え込む。



「そんなことあるんですか?」



「うん、霊が憑くのは特別なことじゃないよ。憑かれていることに気が付かないことがほとんどなだけで多くの人が憑かれたことはあると思うよ。守護霊とかって言うでしょ、ああいうのとかと同じよ」




「テレビとかで憑りつかれて、おかしくなったっていう人もいません?」



「そういう人もいるにはいるけど、ほんとに少ないよ。だから憑かれることに過剰に反応しなくて大丈夫」



 アスカは慧の肩をポンと優しく叩く。



 その「大丈夫」の言葉に慧の不安はスッと消え去った。



(良かった、何もなくて)




「しかし慧君、あれだけの霊に憑かれても、何も変わらないとはすごい才能だね」



「何も変わらないって、すごい不安だったんですけど?」



「他の人なら倒れちゃうこともあるからね。『なんか変だな』で済むなら凄いことだよ。しかもあんなにたくさんの霊を連れてきちゃうなんて」



 アスカは慧をまじまじと見つめる。



「キョーミ深いネェ!」



「どうして、俺に憑いたんでしょう? 幽霊ならわざわざ憑く必要もないでしょう」



 他の幽霊のように行動しないのはなぜなのか疑問である。



「あの世から帰ってきたものの、慣れてなかったり、事情があると、自由に動き回れない霊たちもいる。そういうものは誰かに憑かないと動けない。だからみんな慧君に憑いてきたんだよ、慧君がここで働いているから」



 アスカは笑顔を見せる。



「ほんと、大した才能だよ! この旅館にぴったりだね!」



 才能かもしれない、一般には迷惑な能力かもしれない。



「そんなものが俺にも…」



 そんな役に立つのかも、よくわからないものだが、なぜか嬉しかった。


 

 才能があるといわれたからか。



 少しだけ旅館に貢献できたからなのか。



 慧は自然と笑顔になった。



「今日は何をしますか?」



 アスカに尋ねる。



 今なら何かできそうな気がする。



 いつもより上手くできそうだ。



「今日は忙しいヨ!」

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