祭りの後の、あの視線


 祭りの次の日、慧は部屋で目を覚ます。



 今日はバイトはない。



 予定もないので一人でゴロゴロしてようと決めていた。



 布団の中で携帯を見る。



―来週帰るけど、来週会える? ―


 メッセージが入っている。



―バイトが休みの時なら―

 そう返した。




 慧は昨日のことを思い出す。



 初めてバイトで祭りに参加した。


 祭りに別の角度から関わったことになる。


 いつもとは少し違って世界が見えた気がした。


 幽霊が祭りを楽しむのを見た。



 印象的な経験はまるで遠い過去のことのように感じられることがあるが、それはほんの数時間前の出来事なのだ。




「……楽しかったな……」

 そう自然と呟いていた。


 無意識に。



 バイトのことか。



 幽霊のことか。



 祭りのことか。



 何が無意識にそう言わせたのかはわからないが、そう思ったのだ。




 再びメッセージが入る。



―バイトしてるの? 何のバイト? ―



―秘密―


 そう返すと、


―ケチ! ―

 と、返ってきた。





 次の日旅館に向かって自転車をこぐ。



 慧は交差点で止まった。



 目の前の信号を待つ。



「!」



 その時また視線を感じた。



 どこからだろうか。


 横か、後ろか。


 辺りに自分を見ている人はいない。



 そして今度はかなり多い気がした。



 少なくとも一つや二つではない。



 何か背後から見られているような気がしていた。



 何度も感じるので、何度も振り返って確かめた。



 何度もキョロキョロと見まわして確かめた。



 しかし、特に何も見えない。



 少々気味の悪さを感じる。



「早く旅館に行こう」



 ペダルをこぐ足に力が入る。



 ここまでいくつもあり得ない状況を目にしてきたが、よくわからない感覚が少し怖かった。



 旅館の世界へ行きたい。


 納得できる状況へ行きたい。


 誰かに聞いてもらえば、何かわかるかもしれない。


 慧は旅館へ急いだ。




 旅館はこれまでと違う雰囲気を見せていた。



 多くの客が旅館の庭を楽しんでいた。



 慧がここに来てから初めてのことである。



 そしてそのほとんどが幽霊であった。



「これはあの世から帰ってきた人たちか」



 慧はここでも視線を感じた。



 その数はさらに増えているように感じる。



「いったい何だ?」

 もう一度後ろを振り返る。



「!」



 何もないと思って振り返ったが、今回は違った。



 そこには光の玉がいくつも慧の後ろに浮いているのだ。



「……え?」



 慧は多くの光の玉と対面した。



 気のせいか、なぜか彼らと「目が合っている」ように感じた。



「もしかして、これは…」



 この旅館に来た「お客様」なのだろうか、と慧は思った。




「…えぇと、いらっしゃいませ…?」

 精一杯の笑顔で挨拶をした。




 光の玉は機嫌の良さそうな顔をしているように、慧は感じた。

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