祭りの終わり



 すっかり陽が暮れて、祭りが盛り上がっていく中のこと。



 慧は不意に自分の両親のことを思い出す。



(もしかして、俺の親も帰ってくるかな。そしたら会えるかも・・・)



 慧はどこかに親がいないか辺りをキョロキョロと見まわす。



「あの、すべての魂が帰ってくるんですか?」



 アスカに問う。



「ン~、そういうわけでもないと思う。帰ってきたい魂は帰ってくるし、そうでないものは帰ってこない、と思う」



「そうなんですね」

 少し慧は肩を落とす。




 広い世間で知っている者と会える可能性は限りなく低い。



「別に、今日だけが地上に帰ってこられる日じゃないしね」



「そうなんですか?」




 お盆の時期が先祖などの魂が帰ってくる季節だと思っていたが、そうではないらしい。



「うん。お盆だけっていうのはこっちの世界の思い込みよ。大型連休のイベントみたいなものよ!」



「アスカさん、詳しいんですね」



「まぁ、ちょっとだけネ!」

 アスカは少し含みを持たせるようにして、笑った。




 祭りは再び山車が列を作って通りを渡っていく。



 それが終わると通りに松明が立てられ、そこに火が付けられていく。




 慧も休憩時間に祭りを楽しむ。



 キョロキョロと見まわし、両親を探してみる。




 そこからは歩行者天国、人が通りを自由に練り歩く。



 浴衣を着た者たちも多い。



 幽霊の中にも浴衣を着ている者もいる。



 祭りは松明の火が消えるところで終了となった。



 その時には会場にいる者たちもまばらとなっていた。


 あの世の者たちもどこかへ去っていた。



 慧は自分の両親を見つけることはできなかった。



 両親がこちらの世界に来ているかはわからないのだ。当初から見つけられる可能性は低かった。



 それでも慧は少しがっかりした、死人と会えるなどありえない話であるが。



「そんなに上手いこといかないよな」






「今日は二人ともありがとうね」

 女将が片付けながら二人をねぎらう。



 ずっとたい焼きを焼き続けていた女将、汗をびっしょりとかいている。



「明日はゆっくり休んでね。休みは大切だからね」



 そういう女将は明日も仕事である。



「はーい! 女将さんも休んでくださいよ?」



「わかってるよ」

 女将はにこりと笑う。




 帰り道のこと。



 すっかり暗くなった世界で、慧は歩いている。



 いつもならこの時間は人は歩いていないが、今日は祭りということもあって何人かが歩いている。



「今日も凄かったな」



 黄昏館で働いてからというもの、毎日が驚きだ。



 毎日のことなのに、毎日そう思う。



 刺激的すぎる日常だ。



 そしてこちらの世界でも不思議なことを経験した。



 知っているように見えて、知らないことがたくさんあるものだ。



 黄昏館の外とは違い空を見上げても星はまばらにしか見えない。



 しかしそれが落ち着いた。




「!」


 慧は振り返った。


 誰かに見られている気がしたのだ。



 少し背中にぞっとするような、何か。



 もちろん後ろには誰もいなかった。



(こんな展開は小説の中だけだって…、それで納得できたのはこの前までだな)



 それが何だったのかは後日のことだった。

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