祭りの始まり
店の準備ができたので開店した。
「いらっしゃいませ~!」
アスカが目の前を通る人に声をかける。
素通りする者、ちらりと見る者、立ち止まる者、様々である。
そしてたまに、
「たい焼き下さい」
注文する者が現れる。
最初のお客は小学生だった。
学校の友達と来たのだろう、後ろに少年たちがたくさんいる。
「はい、いらっしゃいませ! 何個にしますか?」
アスカが微笑む。
「五個下さい!」
少年は手のひらを広げた。
「はーい!」
女将がたい焼きを焼いていく。
その間に慧はお会計をした。
「はいできたよ!」
アスカが少年たちに、たい焼きを渡していく。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます! 熱いから気を付けてね! お祭り楽しんでー!」
アスカが笑顔で手を振ると、少年たちは少し恥ずかしそうに会釈して去っていった。
「うぶでかわいいネェ」
うっふっふとアスカが笑う。
「幼気な少年たちを惑わさないでくださいよ」
その後もお客さんにたい焼きを売っていく。
時間が経つごとに人通りが増え、忙しくなっていった。
「いらっしゃいませー!」
アスカと慧の言葉にも熱が入る。
陽の明かりも優しくなり始め、空の青色が薄くなり始めたころ。
その時が来た。
「ピロロロ~!」
笛の音が鳴る。
「ダン! ダン!」
太鼓の音が鳴る。
「ドーン! ドーン! ドーン!」
音だけの花火が三発轟く。
祭りが始まる合図である。
「お! 始まるね!」
アスカがその場で手を叩きながら飛び跳ねる。
通りは一気ににぎやかになった。
音楽が流れる。
地域の子供たちがはっぴ姿で踊りながら通りを進む。
その家族はカメラを構えている。
近くの中学、高校の吹奏楽部の演奏と共に、行進が始まる。ダンス、チアリーディングの部員の行列が通りを歩く。
その後に地域のチームに入って、練習する大人たちが踊りながら後に続く。
それが終わると、山車の登場である。
この日のために作られた山車が通りの向こうから姿を現すと、観客は今日一番の歓声を上げた。
「よ!」
「いいぞー!」
「フー!」
いつもは大人しい町の住人も、皆人目をはばからず盛り上がる。
山車が次々と通りに入ってくる。
山車を一つ動かすにも何にもの人の手がいる。
山車の下で大人たちが汗を垂らしながら息を合わせて動かしていく。
山車を支える者たちに大きな声援と拍手が送られる。
「ヤ―! ヤー!」
「いいねぇ! 夏だねぇ!」
アスカがにっこりと笑う。
いくつかの山車が通り過ぎた後、神輿が姿を現す。
祭りはまた一つ山場を迎える。
同じ衣装に身を包んだ者たちが金色の大きな神輿を担いで通りを練り歩く。
「わっしょい! わっしょい!」
神輿はリズミカルに上下に揺れる。
それに合わせて観客も上下に動くのだった。
そして遂にその時が来る。
黄昏月が空に表れた。
あの世の住人がこの世に降り立つ時間が来た。
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