会場下見

「じゃあ今度紹介してね!」

 アスカはニヤリと笑った。


「え⁉」

 慧の心に不安を覚える。

(なんか、アスカさんと意気が合いそうなんだよなぁ…)


 二人が自分をいじる未来を想像してしまい、何となく憂鬱になった慧である。





 答えてばかりだとうっかりいろいろの話をしてしまいそうなので、


「アスカさんも毎年祭りには来てるんですか?」

 アスカのことも聞いてみる。



 受けてばかりではなく、攻めてみる。



 仙人の言っていたことをやってしまっているなと慧は思った。



 ニヤニヤと笑う仙人の顔が浮かぶ。



「私も行けるときは毎年来てるよ。ここ最近は旅館のバイトで来てるけど」


 アスカは後ろで手を組みながら言う。


「遊びで来るときは友達と来ることが多いかなぁ」

 アスカは見るからに友達が多そうである。



 浴衣を着たり、写真を取り合ったり、大声で笑いあったり。



 青春しているんだろうな、と慧は想像した。



「お互いどこかですれ違ったことあるかもね」



「そうですね。祭りじゃなくてもこの町のどこかであるかもしれないですね」





 また少し進んでいくと、おもむろにアスカが早歩きになった。


 路地裏を指さす。

「ここの先だよ。明日うちがお店を出すところ!」


 そう言ってアスカはサッと入っていった。



 路地裏は普通の通りに見えた。



 特に変わったところはない。



 しいて言えば、路地の抜けた向こうは山へと続く道になっている。


「ここで…」


 路地はそこまで狭くない。ここで店を出しても人通りに問題はないだろう。



 しかし割と場所が普通なので少し心配になる。



「ここでお店出して普通の人にばれないですか?」



「バレるよ。でも普通の人にも売るからね」



「あぁそうなんですね」



 普通の人間にもお店を出すなら大丈夫だと思った。



 しかし同時に「幽霊と人間が鉢合わせたらどうするんだろうか」と思った。





 場所を確認したのち、また大通りへ戻り歩き出した二人。



「私はこの辺までかな。いつも来るのは。この先はあんまり来ないから景色が新鮮!」



「俺はこの辺から来るんで。さっきまでが新鮮でした」



「それじゃぁ、会わないわけだ!」



 そんなことを話していると、二人は祭り会場の大通りを歩ききってしまった。



 足に疲れを感じる。



 結構歩いたものだ。



 パンとアスカは手を叩いた。



「さぁ、明日もあるから、そろそろ帰ろうか!」





 二人はアスカの家に帰ってきた。



 アスカ母が出迎えた。


「おかえり。慧君寄ってく? お茶淹れるわよ。なんなら夜ご飯も食べてく?」


 アスカの母が手招きする。



 さすがに今日はもう疲れた。



 そして始めて会った人の家に入るのは抵抗がある。



「いや、今日はこれで失礼します」



 慧は自転車にまたがった。



「そう? 次は上がっていってね!」


「今日はありがとね。また明日! じゃあね~!」

 アスカはパタパタと手を振った。



「はい、また明日」

 慧も控えめに手を振り返した。




 明日は祭り当日、町が賑やかになる日である。



 慧も楽しみにしていた祭り。



 夜の熱気も今日は心地よく感じた。

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