祭りの思い出?



 町の通りの端にはすでに明日の祭りの準備が完了していた。



「お、もう松明があるねぇ」



 ずらりと大きな松明が寝かされている。



 祭り当日、松明に火がつけられる。



 そして様々な山車が通りを練り歩く。



 小さな町が一番盛り上がる季節である。



 出店の準備も進んでいる風であった。



「楽しみだねぇ」 



 アスカはニコニコしながらスキップする。



「慧君はお祭り来てる?」



「はい。物心つく前から連れて来てもらってます。最近は一人できますけど」



「長いんだね、この町。家族に連れて来てもらったんだ。お父さんお母さんと?」



 慧は言葉に詰まる。



 あまり両親がいないのを話したくない。



「はい……、そうです」



 言葉を濁す。



 嘘ではない。生まれた年に両親に連れて来てもらったと祖父母から聞いている。



 深堀りされないように、最近の祭り事情を話す。



「近所の知り合いとかとも来たりしてましたね。最近は一人で適当に歩いて、帰るくらいです」



「知り合いって友達とは違うの?」



「うーん、同じ学校のクラスメートの、女子です」



 そこまで言って慧は後悔した。



「ほう、興味深い。詳しく聞こうか」



 アスカの瞳がきらりと光る。



 ニヤニヤといたずらっ娘の顔をしている。



 女子というのは余計な情報だった。



「いや、別に大したことなくて、普通の女子です」



「なんで、一緒に行くことになったのさ?」



「まぁ、お互い一緒に行く人がいなかったからというか…」



「なんでそんなに仲良くなったの?」



「彼女とは家が近所だったんです。ずっと小さい時から知り合いで。この辺田舎だか

らあんまり同性の同級生がお互いいなくて、それでたまたま遊んでいたというか…」



 本当は両親が仲良かったようだが、そこは伏せた。



「彼女、結構積極的にコミュニケーションとるタイプ?」



「なんでそう思うんですか?」



「だって慧君、自分から誰かと仲良くしそうにないもん」



 そんな推測の仕方は慧には少々不本意だが、本当なので何も言えない。



「どうでしょう。僕より社交的だと思いますけど、他の人がどんなかあんまりわから

ないんで」



「そっかー、普通に青春してるんだー。負けたなぁ」

 アスカは悔しそうに口を尖らせる。



「青春なんて、そんなもんじゃないですよ」



「いや~、憧れるよ。あたし男の子と二人でお祭り行ったことないもん! その子は今どうしてるの?」



「別の大学に通ってますね」



「会ったりしないの?」



「大学が県外なんです。そういえばこの間『今度帰ってくる』って連絡あったな」



「じゃあ今度紹介してね!」



 アスカはニヤリと笑った。



「え⁉」



 慧の心に不安を覚える。



(なんか、アスカさんと意気が合いそうなんだよなぁ…)



 二人が自分をいじる未来を想像してしまい、何となく憂鬱になった慧である。

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