アスカ母登場


「そうだ、慧君。家に来て良いヨ!」




「え?」

 慧は首をかしげる。


 なぜアスカの家に行くのだろうか。


「自転車はウチに置いていこう。会場のすぐ近くだから!」


「あぁ、そういうことですか」


「おや? 何か期待したかな? アタシで良ければ・・・」


「良くない、良くないです!」

 慧は思い切り首を横に振る。


「寂しいネェ」

 アスカはコロコロと笑った。



 そうして、アスカに言われるがまま、アスカの家に連れていかれた。


「ここが、アスカさんの家!」


 アスカの家はまるで豪邸だった。



 田舎町なので、この辺りの家はどれも大きいが、それにしても大きかった。


「さぁ、こっちだよ!」

 アスカが手招きする。



 敷地の入り口から玄関までは結構距離があった。


 それでも家は大きい。


 敷地の広さがケタ違いなのだ。


「この人めちゃめちゃお嬢様なんじゃないの⁉」



「自転車はこの辺に適当に置いておけばいいよ!」


 アスカは自転車を停める。



「ただいまー!」

 アスカが勢いよく扉を開ける。


 慧はアスカ自身の家だと分かっていながらも「そんな豪快に開けないほうが」と思ってしまう。


 室内から足音が聞こえる。



「おや、おかえり」


 若々しい女性が姿を現す。


 上品な雰囲気の美人だった。


 若々しいが、若作りはしていない魅力がある。


 そしてアスカに似ている。



「これが私のお母さん!」


「あ、どうも! 初めまして!」


「こちら、バイトを一緒にしてる石岡慧君!」

 アスカが慧を紹介する。



「これは丁寧にどうも。アスカがお世話になってます」


 アスカの母も挨拶する。


「いやいや、そんなお世話なんて・・・僕のほうがお世話されてるというか・・・!」


 慧がバタバタと手を振る。



「おやおや、アスカもなかなかやるなぇ!」


 おっほっほと笑うアスカ母。



「あー! そういうことじゃないです!」

 慧が慌ててさらに否定すると、二人は楽しそうに笑った。


「慧君、そんな言い方したら、まるでアタシたちがそういう仲みたいじゃない?」


「え? そうなの?」

 アスカの母がジトリと慧を見据える。



 慧は背中にツーっと汗が流れるのを感じた。


「いや、それはいけません! 大事な娘さんにそんなそんな・・・!」


 また焦って慧が言うと、二人は大笑いした。


 アスカの母は急に真面目な顔になり、

「そんなに否定をされるとかわいい娘を持つ母としては残念ね」

 そう言った。



「アタシも悲しい!」

 アスカは両手で顔を覆う。



「えー・・・」

 慧は二人を前にあたふたとする。



 そんな慧を見て二人はまた大笑いした。


「なんてね、慧君面白いわね!」


「そうでしょ。面白いでしょ!」

 親子二人はホホホと笑いあう。



 そんな二人を少々苦々しく慧は見ていた。




「慧君、こんなふつつかな娘ですけど、よろしくね!」


「よろしく!」


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 なぜか結婚の雰囲気みたいな気もするが、気にしないでおこうと慧は思った。



「・・・ほんと、似たモノ親子ですね。見た目も中身も」


 アスカの母から解放されるまでに結構かかった。



 その間に、随分と陽は沈んでしまったが、アスカと慧は祭り会場の下見へ繰り出した。

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