祭り前日



 墓参りに行った次の日のこと。


 慧は今日もバイトが入っていた。




 慧が受付に立っていると、旅館の入り口の扉が「ガラガラ!」と勢いよく音を立てて開く。


「こんにちはー! お届け物ですよー!」


 バサバサと大きな羽をたたみながら鳥の「ようなもの」が現れた。体に斜め掛けのカバンをつけている。


 それはフクロウのような見た目だった。


 やはりこの世界のフクロウだ、普通ではない。体は大きく、カラフルな羽が所々に生えている。


 ふわふわとした羽毛はいかにも触り心地が良さそうである。



 そして彼も当然のように話す。



「あぁ、ご苦労様」

 女将が受け取る。



「なんですか? それは」


「これはね、旅館のチラシだよ」


「じゃあ、またバイトを募集するんですか?」


「これはね、バイトのじゃなくてね。泊まりに来てもらうためのチラシだよ。宣伝用」


「どうやって配るんですか?」


「今度、というか明日か。私たちの町で夏祭りあるじゃない? そこでうちも出店出すんだけど。そこで配るの!」


 アスカはそう言ったが、慧は違和感を覚えた。


「でも普通の人はここにたどり着けないって・・・」


「そう、だからこれは普通の人には渡さないの」


 アスカはニヤリと笑う。


「この世に戻ってきた幽霊たちに渡すんだよ!」




「幽霊って本当に戻ってくるんですか⁉」


「そう! 幽霊は本当にお盆に帰ってきているのです!」


 アスカはえっへんと胸を張る。


「お墓参りに行くのは大切なんだよ!」


「ちょうど昨日行ってきたんですよ」


「おぉ、えらいねぇ。よしよし」


 アスカが慧の頭をくしゃくしゃと撫でる。


「ちょっと! 俺そんな子供じゃないです!」


 傍で見ていたフクロウとコロちゃんズも面白そうに目をクリクリさせて慧の様子を眺めた。


「慧さん、ヨロシクねぇ」

 フクロウはパタパタと羽を動かした。


「はい、よろしくお願いします」

 



「じゃあまた来まーす」

 そう言って、フクロウに似た彼は帰っていった。


 わざわざ窓から飛んで帰っていった。



「彼、なんていう名前なんですか?」

 慧はフクロウのことを尋ねる。



「みんなアウルと呼んでいるね」


 アウル、フクロウの英語OWLから来ているのだろうか。


 割とそのままの名前で覚えやすい。



「祭りで店を出すなんて、そんなことまでやっているとは知りませんでした」


「慧君、お店を手伝ってくれるかい?」

 女将が慧に訊く。


 女将からの仕事の依頼だ、言われればやろうと思う。


「はい。わかりました」

 そう慧が言うと、女将は大きく笑った。



「じゃあ初めの面接から一週間経つけど、まだ続けてくれるね?」

 女将は微笑む。



(そうか。そういう約束だったんだっけ)


 そんなことを言われていたことは忘れていた。



 まさか自分に尋ねられるとは思っていなかった。



 旅館側から「続けても大丈夫だ」と伝えられたようで、少しだけ嬉しかった。



「はい。よろしくお願いします」



「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 女将は丁寧にお辞儀した。



 頭のかんざしがきらりと光る。



「良かったですねぇ! 女将さん」


「そうだねぇ」

 アスカと女将は笑いあった。







「あの世から帰ってくるのか・・・。どんな風なのかな」

 バイト終わり、自転車を押しながら呟く。




「慧くーん、待ってー!」


 アスカが自転車で追いかけてくる。


「あぁ、アスカさん」


「慧君、せっかくだから明日のお祭り会場下見していこう!」



 慧は内心で家に帰りたいと思った。


 しかしこの祭りは慧が毎年遊びに行く、楽しみに良く祭りである。


 今日は祭りの用意がされているはずである。


 だから少し行きたいと思った。


 それに出店の位置を確認しておきたい。



「はい。わかりました」


「よし! レッツゴー!」


 アスカが慧の前で歩き出す。


 慧も後に続く。



 するとふいにアスカは慧のほうを振り返った。


「あ! 残業代は出ないけど、いい? 代わりにかわいいお姉さんと歩けるってことで!」


「・・・いいですよ」



 アスカは茶目っ気たっぷりにウインクした。


「そうだ、慧君。家に来て良いヨ!」

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