お墓参り


 次の日、慧がまだ部屋で眠っているころ、


「慧、今日はお休みだったね」


 祖母に起こされる。



 まだ朝は早い。



「うーん・・・、うん、そうだけど?」



「今日はお墓参りに行こうかと思ってるんだけど、行くかい?」



 時期はお盆の時期、お墓参りの季節である。


 慧の両親の墓参りである。


 慧はいつも行かずに祖父母に任せていた。


 しかし祖父母は毎年慧を墓参りへ誘った。



 今年も同じように。




「今年も寝てるか?」


「うーん・・・」


 寝返りを打つと、二度寝の体勢になってしまうが、そんな中でも考える。



 記憶の中に明確な姿の両親はいない。


 忘れているだけなのか。


 思い出そうとしてないだけなのか。



 今年も行かなくていいかと思った。


 その時ふと、旅館のことを思い出した。


(・・・でも行った方がいいかな)


 今年はなぜか、そう思った。



 慧はバッと起き上がる。


「行く」


「おやまぁ」

 祖母は嬉しそうに笑った。





 慧の運転で霊園に向かう。


 道中、供える花を買った。


 霊園は朝早くからでも混んでいた。


 慧がこの霊園に来るのは久しぶりだった。


「ここだよ。お父さんとお母さんのお墓は」


 墓はこじんまりとした小さめのサイズだった。


 控えめにそこに立っている。



「そっか」


「慧が小さい時も来たことあるんだよ」


 慧はあまり覚えていない。




 両親に関わることはすっぽりと抜け落ちているようだ。


 しかし、小さかったときは霊園の雰囲気が苦手だったのを覚えている。


 無機質な色の大きな墓石。


 来る人は皆黒い着物を身にまとい、暗い表情。


 子供ながらに普通ではない空気感を覚えている。


 極め付きはやはり、自分の両親の葬式、埋葬に参加したことが・・・。



(やっぱり、あの時のことが・・・)


 慧は一人顔をしかめた。


 しかし、今は大学生、「イヤだイヤだ。もう帰る」と駄々をこねるわけにはいかない。



 自分の家族の墓だ、何かしていこうと思った。




 墓をきれいに掃除する。


「手際がいいねぇ」


 祖父が慧の掃除に感心する。


「バイトで掃除をしてるからね」


 丁寧に、磨いていく。

(久しぶりだから)



 掃除を終えたら 慧と祖父母は墓に花を供え、線香をたいた。


 線香の煙がゆらゆらと控えめに立ち上がる。



「今年は慧が来てくれたよ。良かったねぇ。慧がお墓をきれいにしてくれたよ」


 祖母が墓に向かって話しかける。


 心から染み出たような、そして心に染みるような声だった。


 まさにそこに両親たちがいるかのように話す。


 どこか寂し気で、嬉しそうで満足そうだった。




「今日来て良かったな」


 その様子を見て慧はそう思った。


 慧も祖母の横で手を合わせる。


(今年は来たよ)


 少し懐かしさを感じる。




 この町では、お盆の墓参りは地元の祭り前までに済ませておく家庭が多い。


 さきに先祖の霊を迎える準備をしておく。


 そして祭りで先祖の霊と一緒に盛り上がるのだ。


「これで今年の夏も大丈夫!」


 祖母が満足そうに笑う。



「さぁ、旨いもんでも食ってくか!」

 祖父がパンと手を叩いた。




 もうじき祭りの時期が来る。


 また慧の知らない祭りの姿を見ることになる。

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