バーのケイコと厨房のカゲロウ
「うふふ、よろしくね!」
面白そうに笑うケイコ。
大人っぽい顔なのに意外にも無邪気なことをする。
今日は暗めのノースリーブのワンピーズを身に着けている。
白い肌との対照が素敵だ。
「何か俺にできることはありますか?」
「これからお酒の在庫を確認するの。手伝ってくれる?」
二人は酒の在庫の管理をしていく。
慧はまだ酒を飲める年齢ではない。
この棚に並べられている酒がどういったものかはわからないが、何となく高いのかなどと考える。
酒の瓶がずらりと並べられているのは初めてであるが、どの便も丁寧にラベルが貼られていて、見ているだけでも少しわくわくした。
ケイコは静かに酒を確認していく。
横顔からのぞく真剣な眼差し。
何の酒がどれくらいあるのか確認していく。
ケイコに言われた通りに書き記していく。
足りないものはあとで注文する。
ケイコの仕事ぶりは他の者たち同様真面目といったところだった。
特に仕事ぶりは旅館一の繊細さと丁寧さがある。
加えて誰が見てもわかる優雅さ上品さが所作一つ一つに表れている。
これも旅館には必要とされる能力であろう。
慧は彼女のバーでの仕事に興味がわいた。
「ケイコさんはお酒好きなんですか?」
ケイコは首を横に振る。
「私は飲んだことないの」
彼女の年齢は見た目から恐らく二十代前半、生前お酒は飲んでいても不思議ではないが。
しかし生前の話を聞くのは憚られる。
そこまで人に入り込むことは、慧は嫌いである。
「それでお酒の仕事をこなすなんて、すごいですね」
「・・・どうだろうね。お客様が満足してくれてればいいけど」
ウフッと笑った。
その後ケイコの用事が済むと、慧は夕食の用意のため食堂に向かった。
食堂の掃除をこなす。
テーブルを拭き、椅子も磨く。
そして最後に床掃除をする。
丁寧にもくもくと作業していく。
特に問題なく掃除は完了した。
「カゲロウさん、お手伝いすることありますか?」
厨房を覗く。
カゲロウは隠れもせず、透明にもなっていなかった。
慧に気が付いていなかったからである。
カゲロウは愉快そうに小さくステップを踏みながら食材を用意していた。慧の声には全く気が付いていない。
機嫌がよいのがよくわかる。体の模様がキラキラとしたものになっているからだ。それはミラーボールのよう。
「あ、あのぅ・・・」
悪いとは思いつつも、もう一度慧が声をかける。
「!」
ぴたりと動きが止み、体の模様が頭からサーッと青くなる。
ゆっくりと慧のほうを向くカゲロウ。
そして足元から赤く染まる体。
「ボッ!」
口から火を噴いた。
「うわ! 大丈夫ですか!」
頭から煙を出すカゲロウに濡らした手拭いをかけて介抱した。
カゲロウは恥ずかしがりながらも慧と夕食の準備をしていく。
慧は料理ができないので、カゲロウが作ってくれたメモをもとに食器を準備していく。
カゲロウの美的センスはなかなかなものだと思う。
料理に合った食器が合わさると、一気に彩が増す。
こうできたら食卓が楽しくなるだろうなと慧は考える。
(でも、できないんだよな。食器と料理の組み合わせなんて難しすぎるもん)
だから旅館に来て楽しむ。それも非日常。
細やかな心遣いが食器ひとつに表れるのも旅館に必要な要素なのだろう。
もうすぐ夕食の時間である。
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