祭り、お盆、死者たちの帰還

4日目の始まり


 それからのこと、二日目も三日目も慧はバイトで黄昏館へ通った。


 さすがに仕事をこなすのはまだまだ慣れず大変だが、なんとかやっていく。


 基本的な仕事内容としては他の旅館の仕事とあまり変わらない印象だった。


 慧にとっては初めてのバイトなので、これが「基準」になっていくのだが。



 そして四日目のこと。


 今日は慧にとっては初めての遅いシフトである。


 出発はお昼なので、慧が目を覚ましたのは日が昇りきった後だった。




「慧君、いらっしゃい」

 女将に迎え入れられる。


 女将はいつ慧が来ても迎え入れてくれる。


 朝早くから夜遅くまで、誰よりも旅館にいる時間が長いという女将。


 アスカの話によれば、誰も女将より早く仕事を始める者も、遅く仕事を終える者はいないという。


 旅館は基本二十四時間誰かが在中している。つまり女将は常に旅館で仕事しているということになる。



「女将さんはいつ休んでるんですか?」


 そう聞くと女将はオホホと笑った。

「私は体が丈夫なのが自慢でねぇ。そんなに休まなくても大丈夫なんだよ」


 そんなことあるだろうかと慧は疑問に思う。


 いかに女将が魔女という人間以外の存在だといっても、疲れないことは無いだろう。


 逆に不安になってしまう。


「慧君は優しいねぇ」


 なぜかそう女将に声をかけられた。



「女将さんはどこに住んでいるんですか? この近くじゃないと生活できないですよね?」

 そう訊きつつも相手は魔女だったと慧は思った。


 魔女なら空を飛んだり、あるいは瞬間移動することもできるだろう。


 この近くに住む理由はないが・・・。


「私はこの旅館のすぐそこにある小屋で生活しているよ」


 ・・・すぐ近くに住居を構えていた。




「今日はいつもより遅い時間までだからね。ケイコちゃんの仕事を手伝ってもらえるかな?」


「はい」


 ケイコの仕事を見るのはこれが初めてになる。


 大抵慧が働くのは日中、ケイコは夜を担当している。


 同じ施設で働いていても会う機会がないし、まして話す機会もない。


 なぜならケイコは幽霊だからである。


 彼女は神出鬼没、たまにフラッと出て来てはどこかに消えていく。


 会ってもお互い少し挨拶するくらいである。


 恐らく彼女も慧が知らない仕事をしているのだと思う。


 正直、慧はケイコのことをあまりよく分かっていない。


 なんとなく上品な大人っぽい人という印象は持っているが。


 近くにいるアスカが割と子供っぽい性格をしているからそういう風に見えているのかもしれない。



 彼女は、どういう性格なのか、どんな仕事をどういう風にこなすのか。



(実は厳しかったとかだったら、ヤダなぁ)


 初対面の印象を考えるにそんなことは無いと思うのだが。


 慧はバーの扉を開ける。


 暗い室内に光が差す。



「ケイコさん、今日はお願いします」


 沈黙。




「はーい」

 ケイコが姿を現す。

 慧の後ろに。


 昼間なので姿が薄めである。


「うわっ!」


 慧が飛びのく。


「うふふ、よろしくね!」


 面白そうに笑うケイコ。

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